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俺と黒猫とガーディアンの異世界捜索隊  作者: s_stein
第一章 異世界転移編
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2.紫電一閃

 ハルトは、二本の剣を下からゆっくり扇を描くように振り上げる。


(――なんだぁ!? 体が勝手に動いて剣を構える! これがアシスト!? しかも、剣の柄を通じて、勢いよく流れ込んでくる何かが! うおおおおおっ、力が漲る!)


 彼は、オルテンシアの剣を上段に、カメリアの剣を中段に構えた。これは、愛読している漫画で見た二刀流の構え。


(体の動きは、自分の意志も反映されるようだな。――よし、来い!)


 自分が、ドラマやアニメに出てくる剣術使いの猛者になったような気分。


 未体験ゾーンへ足を踏み入れた彼は、武者震いをし、総毛立つ。


 ゴルルルルルルルルルル……


 黒光りする毛並みの魔物は、低い回転音のように喉を鳴らして、背を低くした。


 たくましい肩まで覆う豊かな(たてがみ)、刺すような視線を投げかける紅色の鋭角三角形の眼、唇から覗く無数の銀の牙、風もないのに揺れる体毛。


 大男並みの体長の魔物は、見た目はライオンだが、らしからぬ特徴も持っている。


 普段のハルトなら、得意の逃げ足でとっくにその場を去っているのだが、剣に変身した彼女が乗り移ったのか、すっかり大胆になっていた。


 こうなると、今にも飛びかかりそうなライオンが、ひ弱に見えてくる。


 実は、あの魔獣、威嚇をしつつ警戒して、それ以上は動かないのでは? 逆にこっちが飛びかかると悲鳴を上げながら逃げ出すのでは?


 ますます彼は、豪胆無比な剣術使いになっていく。しかも、冷静に作戦まで考えている。


(奴が飛びつき、あの太い前足と鋭い爪が俺の両肩へ掛かる前に、喉を刺してやる。うん、行けそう。そのために、まずは奴を挑発だ。ん? 待て……)


 と、突然、直感が彼の挑発行動に介入してきた。


 左足の踵を少し上げ、わずかに前のめりになった状態で呼吸を止めた彼は、全身を耳にする。


 カサッ…………、パキッ…………


 微かな音が背中に触れる。


 両耳がひとりでに、後ろの方向へ動いた気がする。


 背後の虚空に、風以外の何かが動き、髪を、首筋をなでている感じも。


 彼の上半身の血液が、スーッと下がった。


(後ろだ――!!)


 ハルトは、瞬時に体の向きを180度変えた。


 ローカットスニーカーが地面を蹴る。テーラードジャケットが翻る。スマートマッシュの髪が後ろへなびく。


 と同時に、正面の灌木を掻き分けて、闇色の雌ライオンが矢のごとく飛びかかった。


 獰猛な狩りの達人に、二本の銀閃が走る。


 だが、肉を切った感触が柄から伝わらない。


 紅色の眼と黒光りする体が霧散する。


 パキッ!


(また後ろ――!!)


 体の向きを反転した彼は、飛びかかる雄ライオンの喉元へ、フェンシングの要領で剣を突き刺す。前足を目一杯伸ばした相手よりも早く、勝利をつかんだ――はずだった。


 だが、これにも感触がなく、野獣の身体(からだ)は霧散し、虚空に飲み込まれる。


 完全な静寂に浸る森。


 無風で空気まで停止し、彼の呼吸音だけが聞こえる。


(消えるライオンなんて、反則級だぜ。どうする? 落ち着け、俺)


 再び、彼は息を止める。


 微細な一音をも逃すまいと、神経を尖らす。


 耳がジーンと痛くなる。


 ガサッ!


(これも後ろ! 奴の狙いは――背中!)


 ハルトは、剣を持つ体を回転させながら遠心力を加え、背後の敵に斬りかかる。


 視線が後ろを向くと、案の定、自分の背丈を超える二本足の雌ライオンが、迫っていた。


 水平に振る剣で、胴体を一刀両断。


 しかし、やはり斬った感触がなく、黒い霧となって消えた。


(ならば、こっちだ!)


 彼は、さらに回転し、想定通り背後から二本足で襲いかかろうとしていた雄ライオンを斬り捨てた。


 これまた霧となる。


(こいつら、きりがない……。だが、これで、攻略方法がわかったぞ。動く音だ――)


 と、突然、


 ヴォルルルルルルルルルル……オオオオオオオオオオォン――


 背後から咆哮がサラウンドスピーカーのように鳴り響き、彼を包囲する。


 だが、声はするが、動く音がしない。


 直感が彼を振り向かせない。


 訪れた、一瞬の静寂。


 ガサガサッ!


 葉のこすれる音が、正面の上から降ってきた。


(待ってたぜ!)


 彼は素速く見上げる。


 ちょうど、近くの巨木の枝が激しく揺れ、しびれを切らした二頭の影が落下する。


(見えた! 弱点が!)


 彼は後ろに跳び、瞬時に襲撃を回避。


 猫のように音を立てず着地する魔獣たちは、鋭い爪でハルトの立っていた地面を抉った。


 その刹那、二頭の眉間に剣閃が走る。


 今度の感触は、堅い肉を切るような手応えがあった。


 魔獣たちは崩れるように横たわり、たちまち黒い炎に包まれる。


 やがて、炎は小さくなり、四つ足の小動物に姿を変えていった。


 二匹とも、猫に似た、手のひらサイズの小動物。体は焦げ茶色で、胸が動いていない。


 呆気にとられるハルトの前で、その二匹は目を開けることなく、光の粒となって消えていった。



『凶暴化した精霊ですわ』


『普通はこうならない。誰かが狂心(フェアリックター)精霊(ガイスト)を意図的に作って、森へ放っている』



「そうか。とにかく、お前ら、アシストありがとな」



『どういたしまして。お安い御用ですわ』



「直接、体に働きかけるんだ」



『ええ。ああしてこうして、という会話の時間が無駄なので、直接、あなたの行動に働きかけ、力を強化し、自然な動きにするのですわ』



「どうりで。自分にこんな潜在的な身体能力があるわけないし。強くなったという錯覚を起こしたぜ。脳みその半分が、お前らに操られている感じだな。……そうそう。よく、眉間が弱点だとわかったな。俺は、そこが弱点だと自分で判断したかのように切ったんだけど、あれはアシストの結果だよな?」



『ええ、そうですわ。体をスキャンして、そこが弱点とわかり、あなたの行動に働きかける。あなたは、自分が判断したかのように行動して、相手を斬る』



「なるほどねぇ。スキャンねぇ――」



『この男、私たちをなめ回すようにスキャンして、エッチなこと考えている』



「考えてねーよ。すげえ剣だと思って、上から下まで見ているだけ」



『お姉様。この痴話狂い侍を、この後どう成敗しましょうか?』



「お前なぁ! それ系の話、せっかく忘れかけていたのにぃ」



『ちょっと、いいかしら』



「へいへい、今度は、なに侍?」



『ハルトさんとお呼びしてよろしいかしら?』



「おお、いいぞ。そっちが良ければ、呼び捨てでもいいし。さん付けだと、首の辺りが、むずがゆくなるから」



『変人ハルト』



「お前は、さん付け、いや、様付けな! ――それで、何? 改まって」



『ハルト、わたくしたちを泉まで連れて行ってくださらないかしら? ただし、剣から手を離さないようにお願いしますわ。なぜなら、わたくしたちと回路(パス)が切れると、ハルトは元の無力な状態に戻ってしまいますから』



「おお、いいぞ。俺TUEEE!状態は維持してもらわないと。この先、何があるかわからないし。あ、そうそう。お前らの下着。両手に剣、っていう状態じゃ持てないから、剣の先に引っかけていいか?」



『いいわけないですわ!』



「じゃ、ポケットに入れておく」



『やっぱ、変態』



「安心しろ。はかないし、頭からかぶらないから」



『心配してください。はいてますし、かぶってもいます』



「こいつっ!」



『では、道案内はわたくしの方で』



「あっちって言っておいて、行き止まりは、なしな。……そうだ。この世界のことについて、聞きたいことが山ほどあるんだ。聞いてもいいか?」



『ええ。わたくしたちも、ハルトがなぜこの森にいたかも知りたいですわ』



「おお、いいぜ。下着泥棒じゃないことだけは、保証する」



『どうだか。はきたくて、うずうずしているくせに』



「お前なー! 向こうの、でっかい木に突き刺して置いてくぞ!」



『お姉様、ハルトがいじめる!』



「ハルト様だ!」


 両肩に剣を担いだハルトは、背筋をうんと伸ばし、悠々とその場を後にする。


 その時、彼が剣を突き刺したかも知れない巨木の幹から、顔を半分覗かせていた二人の人影が、忽然と消えたのをハルトたちは知らない。


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