表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と黒猫とガーディアンの異世界捜索隊  作者: s_stein
第二章 ダンジョン編
18/60

18.小人の老婆

 ハルトが扉の中に入ると、正面に受付のような場所があった。そこに、オルテンシアとカメリアが立っていて、カウンター越しに奥の下の方を覗き込んでいるように見えた。


 何をしているのだろうと、ハルトはカメリアの肩越しに覗いてみる。理由はわかった。そこに前屈みになって何かをしている人物がいたのだ。


「何をしているの?」


 ハルトの問いかけに、カメリアがギョッとして振り向き、すぐに顔を赤らめた。なぜなら、彼の顔が間近にあったからだ。


「宿帳を床に落としたそうよ」


「バサバサって落ちましたわ」


「ふーん。拾ってあげよっか?」


「拾わなくていいよ!」


 前屈みになっている人物が、床に向かって大声を上げた。しわがれた老婆のような声だった。


「大変っしょ?」


「大丈夫! 触られるとかえって困るよ!」


 そういうものかなぁ、とハルトは思ったが、老婆がいつまでも屈んだままなので、手伝うためカウンターを飛び越えようとした。


 と、その時、真っ赤で皺くちゃの顔がヒョイッと上を向いた。


「余計なこと、すんじゃないよ!」


 糸のように細い目は、顔の皺に紛れるほど。普通の鼻の二倍はある大きな鷲鼻が、魔女を連想させる。そんな顔の口から下がカウンターに隠れて見えないほどの小人である。


 親切心を怒りで返されたハルトは納得がいかなかった。そんな大事な宿帳なら、十分注意して扱えばいいのに、と思ったのだが、これから長い付き合いになるだろうから、ここはジッと我慢することにした。


「さあ、ここに名前を書いた、書いた!」


 老婆が、宿帳ではなく紙一枚をカウンターの上にバンと置いた。だが、ハルトは彼女が後ろ手に隠している物を見逃さなかった。


「宿帳は、そっちじゃないの?」


「細かいこと言う男だね! 後で綴じとくから、さっさと書きな!」


 怪しい裏帳簿か何かとハルトは思ったが、それ以上は詮索しなかった。実は、ハルトの推測は当たっていて、それは、ペスカとの取引の帳簿だったのだ。


 オルテンシアとカメリアは、そばにあった羽根ペンでサラサラとサインをした。もちろん、ハルトには、イトミミズが這い回ったような文字で、サッパリ読めない。


 それより、ハルトがいざ書こうとして、もっと困ったことに気づいた。日本語で書いて良いかなのだ。誰も見たことがない文字だろうから、どこのどいつだ、と怪しまれるのは確実だ。


 その辺りをカメリアに目で訴えると、それを察した彼女がハルトの代わりにサインをした。彼は全く読めなかったが、文字の短さから察するに「ハルト」なのだろう。


 それを見た老婆は、ハルトの方へ顔を向けた。


「お前さん、もしかして、字が書けないのかい? 読めないのかい?」


「あ、ああ……。学がなくていけねえ」


「そうかい、そうかい」


 なぜか老婆が、安心したような表情をする。もちろん、彼女の表情は別の意味である。だが、それに気づかないハルトは、馬鹿にされたような気がして悔しい思いをした。



 毎日の宿代を1ヶ月分前払いしたオルテンシアは、前の宿屋より高い、とこぼしていたが、カンナの近くにいたいハルトは「稼げばいいよ」と言って彼女をなだめた。


 さっそく三人は二階へ続く階段に向かうと、踊り場で待ちわびていたカンナが手招きをしていた。


 それが招き猫に見えたハルトは、「子猫ちゅわーん♪」と鼻の下を長くして駆け上がっていき、カメリアたちは呆れ顔で彼の背中を見送る。


 そんな彼女たちの後ろ姿を見て、老婆――宿屋の女主人ピーノ――は、ほくそ笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=995234452&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ