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俺と黒猫とガーディアンの異世界捜索隊  作者: s_stein
第一章 異世界転移編
17/60

17.新拠点

 馬車がオルテンシアたちの宿泊している宿屋の前に止まると、御者が「早く荷造りしてくれ。運ぶから」と言う。つまり、このまま新拠点となる宿屋まで荷物を運んでくれるらしい。


 タクシーが引っ越しのトラックになったようなものだとハルトは言ったが、この(たと)えはオルテンシアにもカメリアにも、もちろんシュヴァルツにも理解されなかった。期待する反応がない彼は、仕方なく、荷物の搬出の手伝いをすることにした。


 せっかく、オルテンシアの手作りのスープが飲めたのにと、野菜を手にしてみる。


 この食器で仲良くスープをすすれたのになぁ、と皿を一枚一枚眺めては重ねていく。


「そこの食器は、そうやって重ねないで。重みで割れるから」


「デレツン・カメリア、きびしー」


「カメリア・アマティよ」


「…………」


「何見てるの! 手が動いていない!」


「おお、ゴメンゴメン」


 ちょっと怒った顔が可愛いし、部屋の中を忙しく歩き回ると彼女の大豊穣の小玉スイカがたゆんたゆんと揺れるので、ハルトはつい、ボーッと見てしまうのだ。



 荷物の積み出しが完了する頃、今まで大あくびを繰り返していた御者がついに眠りこけていたので、ハルトが大声で起こしてやった。


 すると、目をしばたかせた御者は、何を勘違いしたのか、馬の尻に何度も鞭を入れてしまった。おかげで、馬車が荷物だけを載せて、さっさと走り出す。


 ハルトたちが声を限りに追いかけるも、馬車は全速力で逃げるように走り去った。馬車の勢いが恐ろしいので、通行人は逃げ惑うだけで止めることが出来ない。


「おいおい、あいつ、白昼堂々と泥棒かよ!?」


「そういえば、新しい宿屋の場所って、あの人に教えてもらったと思うけど。

 ハルト、知っている?」


「ああ、カルベだかカルビだか、あいつに?」


「カルドですわ」


「ちっ、マクドの方が近かったか……。

 あー、覚えてねぇ」


「確か、町の中心部だったはずで、ラーモとかいう居酒屋の隣ですわ」


「しゃーねぇ。歩くっかぁ」


 ハルトたちは、若干の食器を持ったまま、とぼとぼと目的地に向かって歩き始めた。



 オルテンシアたちが古びた建物の前でキョロキョロしていると、そばを通りかかった耳の長い種族の人物に声をかけられた。顔の皺の多さから、年配を連想させるその人物は、よく通る声をしていた。


「お嬢さん。何かお探しかな」


「ええ。ラーモという居酒屋――」


「お嬢さんは、顔に似合わず、酒飲みかな?」


 その言い方に、ハルトはニヤニヤすると、オルテンシアがむくれた。


「居酒屋ではなく、その隣の宿屋ですわ」


「両隣が宿屋だが、はてどちらかな?」


「それは困りましたわ。隣にあると伺ったので、てっきり一つかと――」


 と、その時、オルテンシアの正面にあった扉から、猫耳の女の子が顔を出した。


「もしかして、今日から来たお客さん?」


 甲高い声の彼女は、オルテンシアの頭の先から足の先までなめ回すように見ている。


「はい」


「名前は?」


「オルテンシア・アマティ」


「他に何人? 動物は何匹?」


「こちらが、妹のカメリア・アマティ。向こうは、猫のシュヴァルツ」


「みゃーお」


 女の子は、シュヴァルツの取って付けたような鳴き声に、ちょっと警戒した様子だった。


「そして、こちらがハルト」


祭城(さいじょう)ハルト、よろしくぅ」


 ハルトは、おどけて二本指で敬礼の真似をする。


 すると、女の子は、目を輝かせて満面の笑みを見せた。本当に目がハートマークになったのではないかと思えるほどだ。


「格好いい! 素敵! 聞いていたのと全然違う!」


 こうなると、ハルトは調子に乗って、イケメンのチャラ男を演じ始めた。


「子猫ちゃーん。僕をどういう男だと、君は聞いていたんだい?」


「ゴーレムみたいで、マッチョで、耳がウサギで、ドワーフみたいで」


「それ、体型からして全然違うよ。君は、なんかおかしいと思わなかったのかい?」


「こっちの方がいいわ」


「当然だよ、子猫ちゃーん。僕は、こんなに可愛い君の――」


 ハルトが台詞を言い終わらないうちに、女の子は扉を閉めて中に入っていった。


 言う相手がいなくなったハルトは、カメリアに向かって決め台詞を言う。


騎士(ナイト)になってもいいんだよ」


 すると、カメリアは騎士(ナイト)志望のチャラ男の足を思いっきり踏みつけた。


「アウチ!!」


「何にでもなってなさい!」


 プイッと横を向いたカメリアだが、ポッと頬が赤くなった。


 ハルトが片足を両手で押さえてぴょんぴょんと跳んでいると、二階の窓が観音開きのようにガバッと開いた。両手を広げた女の子が身を乗り出して言う。


「ここが、みなさんのお部屋でーす!」


「「「おー!」」」「みゃーお」


 なぜか三人がハモった。


「子猫ちゃーん。まだ僕は、君の麗しい名前を聞いていないんだが」


「カンナ! ここの女将(おかみ)さんはピーノよ!」


「カンナ。うーん、いい名前だ。

 女将(おかみ)さんの名前までは聞いていないけど、うん、ありがとう」


 会話がアホらしくなってきたカメリアが、視線をハルトからカンナに移して尋ねる。


「ねえ。私たちの荷物は、どこに?」


「ここにあるわよ。御者さんが運んでくれたの」


 ハルトは、オルテンシアとカメリアを交互に見ながら言う。


「あいつ、泥棒の割にいい奴じゃん」


「泥棒なら、荷物を運び込まないわよ。

 さっ、行きましょ」


 三人は、扉に向かって歩き始めた。


 その時、ハルトは急に立ち止まり、感慨深げに左右を見渡した。


(ここが新拠点か……。ワクワクしてくるなぁ)


 びっしり立ち並ぶ木造の建物。どれも二階建てで似通っていて、建物の扉の上にある看板を見ないと区別が付きにくい。ここの宿屋の看板は、ナイフとフェークとベッドを組み合わせた物だ。


 なるほどと思うハルトだったが、彼が左右を見たとき、建物にもたれかかるように立っていた数人の男たちの視線が気になった。


(なんで奴ら、こっちを見ているんだろう? よそ者が珍しいのか?)


 気になるハルトだったが、まあいいか、と開けっぱなしの扉の向こうへ吸い込まれていった。



 その男たちの中に、紫髪の男がいた。


 もちろん、エルバ・モスカである。


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