16.幸運をもたらす魔石
カルドは、遠く離れた別室で、ハルトたちに依頼内容等を伝えた。
ダンジョンの場所、所属するギルドの場所、拠点とする宿屋の場所、毎日利用できるコンビニや居酒屋の場所、それに報酬まで次々と教えられたハルトは、とても覚えきれず頭がいっぱいで、聞いたことは右から左に抜けていく。
この点は、オルテンシアの方が記憶力が良く、彼はすっかり彼女に任せっきりとなった。
それがますます、カメリアの気に障る。それで、ハルトを横目で見ては、目が合うとフンとそっぽを向く。これを何度も繰り返す。
「――とまあ、こんな感じだ」
「じゃあ、オルテンシア、あとカメリア。任せた」
「いいですわ」
「取って付けたように……」
「なあ、カメリア。機嫌を直してくれよ」
「知らない」
「つれないなぁ……。
そうだ、カルド。このダンジョンに潜る仕事って、どうなると終わりなんだ?」
「魔物を狩って得られる魔石の中に、紅色に輝く物が出てくることがある。このどれかが、幸運をもたらす魔石と言うことで珍重される。
これは、魔石の鑑定士しかわからないから、見つかったら鑑定士のところへ持っていって欲しい。幸運をもたらす魔石だと判定されたら終わりだ」
「鑑定士の名前は?」
「エルバ・モスカ」
この名前は、もちろん、さきほどペスカと密談していた紫髪の男、秘宝を探すノアール・ミストの手下の名前である。
ノアールが所望する秘宝が、紅色に輝く魔石の中のさらに特別な物であることを、ハルトたちは知らない。
「鑑定士は、どこにいるんだ?」
「ギルドに行けば教えてくれる」
「わかった」
「説明は、以上だ」
ここまでカルドが教えたギルト、宿屋、コンビニ、居酒屋は、全てペスカの息がかかっており、ハルトたちが落としたお金は、ここを通じてペスカの所へ流れる。
魔石は、ギルドが安値で買い取り、他で高く売られる。その収入は、マージンを引かれてペスカの懐に入る。
買い取られて得たお金はハルトたちの報酬となるが、結局、宿屋とコンビニと居酒屋からペスカに流れる。ハルトは、いい金づるにされたわけである。
「もし途中で、姫様とか妹が見つかったら? もうダンジョンは終わっていいのか?」
「捜索に尽力したのは、ペスカ様だ。その恩義に報いねばならぬだろう?」
「ん? どういうことだ?」
「幸運をもたらす魔石を見つけて欲しい。見つければ終わりだ」
「じゃあ、先にそれが見つかったら?」
「我々が捜索の手を引いたら困るであろう? 見つかるまで捜そう」
「おおっ! つまり、両方とも成功――Win-Winで終わりか!」
カルドは笑うが、ハルトの笑顔とは別の意味合いを持っていた。実は、カルドも、エルバとペスカとの密約を知っていたのである。
城から出たハルトたちが、待たせていた馬車に乗り込むと、黒猫シュヴァルツは大あくびをしていた。
ハルトの隣に座ったカメリアは、まだ機嫌が悪い。
「機嫌直してくれよ」
「知らない」
「なんだか、ツンデレちゅうか、デレツンだな」
「何それ?」
「いや、ツンツンかも知れん」
「突いていないわ」
ここに、シュヴァルツが割り込んだ。
「お二人さん。仲のいいところ悪いが――」
「「よくない!」」
「何もハモって怒らなくてもいいのだが」
「で、何だ?」
「おう。結局、さっきも聞いたとおり、人捜しの代わりにダンジョンに潜れって結論か?」
「そうなった」
「直感で物を言って悪いが、なんとなく利用されている気がする。人捜しで困っているところに釣り糸を垂らされたような感じだな」
「じゃあ、当てにする奴でもいるのか」
「いない」
「なら、今は利用されるしかないだろう?」
「それが気に食わん」
シュヴァルツは、カメリアと同じく窓の外を見る。
天気は下り坂で、一雨来そうなほど薄暗くなってきた。それがシュヴァルツの気持ちをより一層不安にさせた。




