15.罠にはまったハルトたち
カルドがハルトたちを連れて部屋の外に出るまで、ペスカは腕組みをして彼らを見送った。扉が閉まって四人の姿が見えなくなっても、まだ扉の向こうにいて戻ってくるということを警戒していたのか、その体勢を保ったままだった。
足音が遠ざかっていって、完全に聞こえなくなってから、ようやく彼は腕を組むのをやめた。
「行ったよ」
どこの誰に向かって言っているのかわからない、独り言のような言葉をつぶやくと、床の入り口に近い側から、紫髪の男の肩より上だけがニュッと現れた。
エルバ・モスカだ。
「ペスカ様もお人が悪い」
「仕方ないじゃないか。白状しないんだから」
「そうではなく――」
エルバの黒いローブを纏った全身がせり上がる。
「ハルトがどこから来たかをご存じなのに、ペスカ様は素知らぬ顔をなさっていらっしゃるではありませんか」
「ニホンだっけ? その世界の名前は。うっかり、ど忘れしたから言わなかったのさ」
「はい。そこに逃げて変身してカエデとか言う偽名を名乗った女の、血のつながらない兄がハルト」
「それで、その女の名前は?」
「――クリザンテーモ・セレーナ」
「くくくっ。この人相書きは、同一人物か」
ペスカは、画家たちが描いた二枚の紙を手にして、テーブルの真ん中へ放り投げた。
「半年前に姿を変えてハルトの家に養子に入って、妹となった。それで逃げおおせたと思っておったのでしょうな」
「それを、ノアール・ミストに見つかった」
「それで、ミスト様が召還したところに――」
「ハルトがくっついてきた」
「その衝撃で、この世界のどこかへ――」
「飛ばされた」
「左様です」
「で、ハルトをどうするつもりかね?」
「当初は殺すつもりでしたが、こちらが用意した強力な精霊をいとも簡単に倒したので、ミスト様が他に利用することをお考えになりまして」
「それがダンジョンか」
「話をそちらに持っていってくださいまして、誠にありがとうございます」
「うむ。
……それはそうと、なぜオルテンシアとカメリアの記憶が半年前までしか遡らないのかね?」
「それは、ミスト様も不思議がっておられます。おそらく、クリザンテーモ・セレーナがニホンへ逃げた時期と重なるので、何か関係すると思うのですが」
「ふむ。謎は、飛ばされた先と、そこの2点か」
「まずは、行方を捜すことが先決」
「ところで、ハルトがダンジョンで稼いだ金は、私の所へ流れるのだよな?」
「もちろん。奴らが支払う宿屋から、商店から、すべてペスカ様の懐へ流れます。
ただし、少しは上前をはねさせていただきますが」
「ま、手数料と言うことで、仕方あるまい」
「また新しい調度品も増えましょう」
「楽しみだな。ハハハ!」
ペスカは、腹の底から笑った。
「で、ハルトは、いつまでダンジョンで働かせるのかね?」
「ミスト様がご所望の秘宝を見つけるまで」
「見つけたら?」
「血に飢えた例の呪われた剣で、首を刎ねます」
「女は? 黒猫は?」
「もちろん、道連れです」
エルバは、口角をキューッとつり上げた。




