14.領主様は全てお見通し
「この国にダンジョンがあるのを、聞いたことがあるかな?」
ペスカの問いかけに、三人は首を一斉に横へ振る。
「実は、隣のヴァンツレーベン公国にダンジョンがあるのは有名なのだが、それが地下で最近拡大してきて、私の領地にまで広がってきたのだよ」
首を傾げたハルトは、右隣のオルテンシアの耳元で囁く。
「なあ。パンツねえべ公国って、ひでー名前じゃね?
お前がパンツ脱ぎ捨てて、どっかにやったんだろうが、って」
「ヴァンツレーベンですわ」
「へ?」
この時、ハルトの左足がつねられた。彼が左隣を見ると、カメリアがむくれている。彼女は、小声ですねる。
「ひどい。お姉様ばっかり」
「ご、ごめん」
と、その時、ペスカが「わからないことでもあるのかな?」と声をかけたので、オルテンシアが「いいえ、大丈夫です」とこの場を切り抜けた。
「どうもその広がったダンジョンから、魔物が地上に出没するらしく、最近目撃情報が多いのだよ。
それで、退治して欲しいのだが」
ここでハルトが「あのー」と手を上げる。でも、オルテンシアが手を上げて彼を遮った。何を言い出すかわからない彼だから、この方が得策だということを、彼女は考えたのだ。
「まず、なぜわたくしたちに依頼されるのでしょうか?」
「それは、さっき言ったとおり、稼ぎのためだよ。魔物狩りは、安定収入を得られるからお勧めだ」
「でも、ダンジョンでの魔物狩りは、いわゆる冒険者のやる仕事ですわ」
「もちろん、それは知っているよ。
でも、そうでないことも知っている」
「そうでないこと?」
「冒険者だけが狩りをやるのではないこと」
「とおっしゃいますと?」
「知恵と勇気と魔力があれば、誰にでもできる」
「お言葉ですが、そんなに簡単ではないと思いますが」
「いや、君たちなら出来る」
「なぜ、そうおっしゃるのですか?」
「そろそろ、正体を明かしてくれてもいいんじゃないのかな?」
三人の驚く顔を見て、ペスカはニヤリと笑った。
――自分たちの正体を知っている!?
三人の狼狽えぶりは、尋常ではなかった。実際、オルテンシアは声が震えた。
「正体とおっしゃいますと? わたくしたちは、冒険者ではありませんが」
「どうしても自分たちで認めようとしないのだね?
なら、カルドから説明しよう」
すると、カルドは、コホンと咳払いをして語り始めた。
「まず、ここの城に入って、ペスカ様がお前たちの名前を尋ねていないことに気づかなかったのか? 初めて迎え入れるのに、だぞ」
言われてみれば、そうだ。それは、すでに知っているということだ。
「お前たち、オルテンシア・アマティとカメリア・アマティと、外で待っている黒猫シュヴァルツ・フリーデマンが初めてこの町に来たときから、ずっと監視していたのだぞ。
黒猫が変身できることも、二人が剣に変身できることも知っておる」
これには、恐れ入ったと言うしかない。
「ハルトについては、二人と一緒に今日から行動していることは知っている。
その前はどこにいた? 正直に答えよ」
ハルトは、絶体絶命の気分になったが、記憶喪失を貫くことにした。
「気づいたら森の中にいて、それまでの記憶がないんだ。記憶喪失ってやつ」
「その割に、自分の名前は覚えているんだな?」
万事休す。こうなったら、出任せを言うしかない。
「……名札があったからな。森の中で精霊と戦っているうちに、どっか行ったけど」
「精霊? 素手で戦ったのか?」
「……いや、この二人と」
「変身した二人――だな?」
「そうだ」
と、その時、ペスカが身を乗り出した。
「やっと認めたじゃないか。それなら、冒険者と遜色ない。ダンジョンに潜れるはずだが、どうかね?」
「…………」
「どうかね!?」
「……わかった。依頼を受けるよ」
「そうこなくっちゃ! では、カルド。別室へ三人を案内して、この後のことを打ち合わせたまえ」
「かしこまりました」
カルドが立ち上がって三人に目配せすると、三人ともうつむき加減に立ち上がった。




