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俺と黒猫とガーディアンの異世界捜索隊  作者: s_stein
第一章 異世界転移編
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11.若い領主の慈悲

 甲冑を着けた男たちの馬に先導されて、馬車が大きな城門をくぐり抜けると、手入れが行き届いた花壇が両側から出迎える。


 そこから溢れる色の洪水に、三人は思わず、ワーッという歓声を上げた。


 もちろん、それらは大小様々の色彩豊かな花々。


 すっかり目を奪われた彼らは、じっくり観賞したくても馬がさっさと走るので、非常に残念がった。ハルトは、何か理由をつけてでも車を止まらせたかったほどだ。


 本当に貴族の物だろうかと思うほど立派な城の前で、馬車は停止する。階段の上から人々が駆け下りてきて、ハルト一行を出迎えるのだが、当人たちは気が気ではない。


 なぜなら、これだけ盛大な歓待を受けながら、披露するのはハルトの即興というか思いつきの怪しいラップとダンスなのだから。彼は、領主に罵られ、自分があの階段の上で下男にでも尻を蹴られるかも知れないという恐怖に襲われた。


 こうなると、それまで罠ごとぶち壊してやるという無礼なほどの豪胆さが影を潜め、周囲の視線に怯える『蚤の心臓の男』に成り下がる。


 シュヴァルツは謁見を許可されなかったので馬車で留守番をすることになり、三人がステップから降りた。


「大丈夫」


 城の入り口の階段を上がっていた弱気のハルトの背中を、カメリアが軽く引っ張って、声をかけてきた。想定外の出来事に、彼は叫び声を上げそうなほど驚き、つんのめる。


「しっかり」


「……ありがとな」


 引きつったハルトの顔は少し和らぎ、甲冑の男たちの背中を見ながら、再び階段を踏みしめて上っていく。



 二階建ての家が入るような高いエントランスを通り、豪華な装飾や絵画が美術館の展示のように並ぶ廊下を通る。


 ハルトは、キョロキョロしないで歩く方が田舎者みたいにならなくて良いと考え、堂々と歩いてみたが、それは無駄に終わった。周りの展示物に心まで奪われ、足が自然とのろくなる。



 案内された広間に入ると、そこはシャンデリアによって輝きを増した黄金たちに囲まれた部屋であった。調度品全てが黄金。壁も床も天井も黄金。


 金満、贅沢などの非難する言葉は消え失せる。さりとて、賛美の言葉が思いつかない。息を飲む美しさとは、このことである。


「おーい、聞こえるかい?」


 声が耳に届いていたはずだが、今頃になって声の方に意識が向いたので、三人は大いに慌てた。


 見ると、奥の方で長身で金髪碧眼の美男子が、玉座みたいな黄金の椅子に座って手を振っている。服は、黒い背広に似ているが、左胸に勲章みたいな物をたくさんぶら下げていた。


「さっきから、声をかけていたんだが……」


「「大変失礼をいたしました!」」


 オルテンシアとカメリアが、スカートの端を持って膝を曲げ、一礼した。左右にいた二人を交互に見たハルトは、ばつが悪そうな顔になって、頭を下げたというか下を向いた。


「いやいや、この部屋に入って堂々としていられるのは、そこにいる騎士たちと召使いくらいだよ」


 明るく笑う声が、広間に響き渡る。


「ペスカ様。例の者を連れて参りました」


「ご苦労、カルド。下がってよろしい」


 カルドと呼ばれた男とその周りの者が一礼すると、甲冑をガチャガチャ言わせながら部屋を出て行った。



「君かね? 町で評判の大道芸人は」


 そういう風に見えていたんだ、とハルトは苦笑する。


「はい、そうです」


「では一つ、披露してくれたまえ」


 ペスカの笑いは、さげすみや皮肉ではなく、純粋にこれから始まる歌や踊りへの期待から来ているようだ。


 ハルトは、腹をくくった。


 ここに来るまで時間がたっぷりあったのに何も準備してこなかったことを後悔したが、即興とはそう言う物だと思うと、妙に肝が据わり、足が地に着いてくる。


 彼はステップを踏み、オルテンシアとカメリアが彼の動きに合わせた。


「気持ちいろいろ、十人十色。

 苦しい、悲しい、悔しい、寂しい。

 それが不思議と、ここまで来ると、

 (せん)()(ばん)(こう)(せん)(こう)(ばん)()

 花が溢れる、笑顔が溢れる。

 心が安らぐ、気持ちが和らぐ」


 先ほど見た花壇から連想した歌詞である。こんな調子で、この町で他にいいところを褒めちぎる。


 これに、自分たちの事情をさりげなく織り込ませた。


「俺たち捜す、姫様捜す、

 妹捜す、手がかり探す。

 仕事も探す、宿屋も探す。

 叶えば夢色、人生バラ色」


 ハルトたちが演じ終わって息を整えていると、ペスカが拍手をしながら立ち上がった。


「リズムも歌も単調だが、それを最後まで通すと面白さが出てくる。

 なるほど、これで人気があるのがわかった」


「ありが――」「お褒めの言葉をいただきまして、ありがとうございます。」


 ハルトを遮るようにオルテンシアが礼を述べて、頭を下げた。


「うむ。

 ところで、最後の方で何かを探していると聞こえたが」


「はい。こちらの国、あるいは近隣諸国のどこかにクリザンテーモ・セレーナ姫とカエデという女の子がいるはずなのですが、未だに行方がわかっておりません」


「ほほう。それはかわいそうに」


「大変厚かましいことで恐縮ではございますが、ペスカ殿にお力添えのお願いを申し上げることをお許し――」


「いいだろう。なんとなくだが、『探す』の辺りの歌が悲しそうだったから、もしかしてと思っていたよ。

 きっと困っているんだよね。できる限りのことはしよう。

 ただし、過大な期待をしないで欲しい」


「「「ありがとうございます!」」」


 思わぬ展開に、三人は深々と頭を下げた。


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