英雄は愛する人を救えない
一度目の生ではある国の騎士だった
同じ国の魔術師とは恋人だった
強くてかっこいい人だった
ある日隣国が攻めてきた
俺は必死で戦い相手国を追い返した
国を救った英雄だと崇められた
恋人は前線に出て敵に殺され死んでいた
俺は帰還してからそのことを知った
二度目の生ではある村の農民だった
隣に住んでる幼なじみが好きだった
明るくて元気な人だった
ある日聖剣に選ばれて勇者として崇められた
魔王を倒さなければ世界が滅ぶので旅に出た
魔王を倒して英雄だと呼ばれた
幼なじみは魔物の襲撃を受けて死んでいた
魔物の襲撃があったことすら知らなかった
三度目の生はある国の王子だった
俺は隣国の王女と婚約していた
綺麗で優しい人だった
ある日隣国が戦争になった
同盟国だった俺の国も共に戦争に参加した
勝利に貢献した俺は英雄と呼ばれた
王女は戦争初期に人質となって殺されていた
人質となった王女を取り戻せなかった
四度目の生はまたどこかの王子だった
今度は公爵の娘と婚約していた
可憐で凛とした人だった
ある日俺の居た国で内乱が発生した
一部の貴族が王に反逆を起こしたものだった
内乱を止めた俺は英雄と言われた
婚約者は他の貴族から狙われて毒殺された
解毒をしたけれど間に合わなかった
五度目の生は神殿に住む神官だった
修道女の先輩に憧れていた
芯が強く笑顔が素敵な人だった
ある日神殿の周囲で流行り病が発生した
初めて見るもので治療は難航した
治療薬を生み出した俺は英雄と呼ばれた
先輩も流行り病で命を落とした
薬を作るのは間に合わなかった
六度目の生は孤児院生まれだった
二つ上の姉さんが好きだった
朗らかであたたかな人だった
ある日孤児院の帳簿がおかしいと気づいた
調べると国の中枢に関わる不正を見つけた
国の不正を発見した英雄と言われた
姉さんは働きすぎて死んでいた
俺は働きすぎていることに気付けなかった
七度目も八度目もそうだった
何度生きても死んでしまう
今度こそはと策を講じても
何度も命は零れ落ちる
九度目も十度目もそうだった
俺は何度も英雄になった
守りたいものを守ろうとして
守れたものは違うもの
繰り返して繰り返して
何度も生きて何度も死んで
救いたくて救えなくて
守りたくて守れなくて
今度こそ今度もできない
英雄なんてなりたくない
英雄にしかなれなかった
次こそは次こそは
願い続けた次の生は
×度目の生は勇者だった
愛した人は魔女だった
艶やかで妖しげな人だった
ある日勇者として命令がくだった
魔女を倒して英雄になれと
俺はそうして英雄になった
俺は彼女の息を止めた
俺は自分の息も止めた
そしてまた〇度目の人生が始まった