戦乱
戦国のエリート織田信長が討幕の兵を挙げ、源頼継を鎌倉から追放したのだった。
この事件はすぐに利家に知らされた。
「何! 信長が将軍を追放したじゃと! 将軍が居なくなったことで乱世は、更に混沌としてくるぞ! すぐに軍議に準備じゃ」
武家は幕府の将軍を中心に均等を保っていた。その将軍という足枷が外れたことで、大名を制御するものは無くなったのだ。
利家は、すぐ軍議を開くべく武将たちを城へ集めた。武将は、1570年にあった出来事に心当たりがあった。この年は、織田・徳川連合軍が浅井・朝倉の連合軍を破った姉川の戦いがあった年でもあった。
慶次が定位置に座わり、利家が座り軍議が始まった。
「いいかよく聞いて欲しい…… 源頼継が鎌倉を追放された」
全員に衝撃が走った。
「おいちょっと待ってくれ。二十代も続いた幕府が滅ぼされるなんて。謀反を起こしたのは、誰だよ!」
盤石だった幕府が滅ぼされることを武将は、想定していなかったのだ。
「織田信長じゃ……」
全員に再び衝撃が走った。
「ハハハ! 信長か! やはり信長か!」
織田信長は、武将の世界では、室町幕府を滅ぼしている。それを知った武将は、織田信長に狂いはないということに気づいた。
「どうした? 急に笑い出して」
小六は、心配しているが、武将は続けた。
「もう一度、同盟を組む好機が来たみたいだな!」
こちらの世界では、家来ではなく対等な立場、いやそれ以上の同盟を組みたいと武将は思っていた。
「利家…… 前田家は織田と同盟を組む。それが俺の策だ」
すると、松之助と慶次が反論する。
「織田との同盟は危険すぎます」
「そうですよ。織田は何をしてくるかわかりませんよ」
反論を聞いて武将は、ある男の話をした。
「その男は、文化人で、なんでもでき、その主君に一番近い男と言われていた。しかし、ある日、主君に謀反を起こしてしまった。謀反の後に諸大名へ味方について欲しいと呼びかけたが、娘の嫁ぎ先からも味方になってもらえず、数日で主君の配下だった男に負け、落ち武者狩りにあい命を落とした。そいつに味方する諸大名が何人かいればそいつは間違いなく戦いに勝って、天下を取っていたと俺は思う」
「何が言いたいのじゃ?」
利家は、武将が言っていることを理解することができないようだ。
「つまり、諸大名より先に織田に味方する。織田もすぐに利家の首を取ろうとはしないだろう。ただ、同盟は対等かそれ以上という条件を出す。もし、織田が裏切れば、取って返し織田を滅ぼし、大罪人を破ったことを利家が宣言すればいい。こうしておけば、前田が攻撃されたら、織田は援軍を出し、同盟を破棄すれば織田を攻める。これで前田への被害を少なくできるということだ」
すると、利家は立ち上がり言った。
「あっぱれじゃ武将! これならいけるぞ」
「だが、この作戦には必要なことがある。必ず重臣クラスのそれ以上に人を出す必要があるということだ」
前回の直江と同盟を結ぶ時に、利家が行かなかったことで戦になった。次は利家に交渉の席について欲しいと考えていた。
「あんたが行かないと織田と一戦交えることになるかもしれない。今度は頼む利家」
利家は、難しい顔をしていた。
「今度は、慶次と武将に行ってもらうことに決めた」
武将は、反論する。
「こんな子どもに同盟の話ができるわけないだろうが!」
「こいつは悪知恵だけは一人前だ。以前村人の喧嘩を止めたことがある。そして、前田の血筋だ! 儂は慶次を信じてみたい」
利家の言葉に武将は折れた。
「わかった。何かあっては手遅れになる。小六だけは連れて行く。松之助と利家で城を守る。これでいいか」
今まで黙っていた松之助も首を縦に振った。
この同盟が成功すると、現代に戻れる可能性が生まれると武将は、思っていた。
織田と前田を別世界でも繋げるべく、武将は、旧幕府領を超えて鎌倉へと向かうのであった。