出会い
「やはり、前田慶次という人間は、かっこいいな」
ページをめくる音だけが部屋には、聞こえる。ある夏の暑い日。
彼の名前は、前田武将。大学四年生になり、就職活動もせずに漫画を読みふけっていた。
「いつか俺も慶次みたいに戦国の世を生きてみたいぜ」
しかし、青年の願いは叶うはずもなかった。戦国の世は、遠い昔。戦争をしていた時代ですら、70年ほど前になる。
「この世も戦国時代と同じようなものだからな。慶次みたいな人間がいてもいいよな」
そんなことを考えていると、庭から声がした。網戸を開けて外に出て庭の方を見てみると武将のおじいさんだった。見てみると、一振りの刀を持っていた。
「じいちゃんその刀は?」
するとじいちゃんは、すごいスピードで階段を駆け上がってきた。このじいちゃん、御年80を数える。今でもピンピンしているようなじいさんである。じいちゃんは、武将の部屋に入り、どや顔で説明に入る。
「この刀は、かの有名な前田利益(慶次)が使っていた刀じゃ。ほらここに前田家の家紋梅の家紋が彫ってある。」
言われてみれば家紋はある。それが前田慶次が使っていた刀だと武将は、思わなかった。いわゆる偽物だと思っていた。じいちゃんは、骨董品を扱う番組が好きでよくその番組を見ていたためその気になったのだと思った。
すると、武将は、じいちゃんから刀を取り上げた。
「何をするんじゃ!」
じいちゃんは、すぐ刀を取り返そうとするが、武将は、じいちゃんに追いつかれないようなスピードで、走った。
武将は、山の方へと走って行き、じいちゃんが見えなくなると足を止めた。ここは、武将が子どもの頃よく遊んだ広場のような場所だった。
「偽物とはいえ、あの前田慶次が使っていた刀だとするならば見てみたい気はする」
そう言い聞かせ武将は、刀を抜こうとするが、何か違和感があった。
「この刀……前田慶次という豪傑が使っていた刀にしては、鍔が小さすぎはしないだろうか」
そんなことを考えながら抜いた。
刀は綺麗に手入れされており、新品の様だった。
「あのじいちゃん慶次が使っていた刀だと本当に信じているのかよ」
刀を収めようとすると刀が光りだした。
「なんだなんだ」
すると、武将が使っていた秘密の倉庫が光っていた。
この建物は、戦国時代からここにあったものだと言われており、代々武将の家系が守ってきた場所だった。そこに入り、光る方向へと行ってみると、ある箱を発見した。
「この箱開けるべからず」
箱にはそう書かれてあり、札のようなもので厳重に封印されていた。何かに憑りつかれたかのように箱を開けた。
中身は空だった。
「なんだ……」
がっかりしてまた箱を閉め、気づかれないように札をした。
「もう帰るか」
武将は、家の方向に向かって歩き出した。家の前まで行くとじいちゃんが怒って待ち構えていた。
「ごめんじいちゃんこの刀は返すよ」
じいちゃんは、その刀を見て、確認すると何も言わずに引き返していった。
自分の部屋に戻ると、あの刀のことを考えていたが、考えているといつの間にか寝ていた。
「こ……は……ど……なん……」
誰かの声に反応して、飛び起きた。
「はわわわ、すみませんすみません」
その女の子は、頭をずっと下げていた。
「なんじゃこりゃ~!」
武将渾身のギャグも無視された。そこは見渡す限り草原が広がっていて、そこにいるのは、この女の子と武将だけだった。こんな美少女と一緒にいるなんて何かの夢だろう。武将は、また、寝ることにした。
「起きてください!あなたは誰なのですか!起きてください!」
その子は、ゆすり続けたが、起きなかった。
「なんだこの男は!見たこともない着物を着ておるのう」
そこへ謎の女が近寄ってきた。
「この人どこからここに来たのかわからないの」
女の子は困ったような顔をして、その女に話しかける。
「仕方がないのう。儂が連れていくから、目を覚ましたら話を聞こう」
そういうと女は、武将の体を軽く持ち上げ、城に連れ帰った。