決断
利家は、慶次が心配だったのだろう。毎日、城の外にでは、帰りを待っていたのだった。
「松! 慶次たちはいつ戻るのじゃ?」
松之助は、そんな利家の護衛を武将に頼まれていたことから、毎日城の外へ出ていた。
その頃、武将たちは、前田領内に入っていた。
「ここまで来れば敵も襲ってこないだろう。慶次頼みがある。一刻も早く戻り、利家に皆無事と伝えて欲しい」
武将は、小六の件でまた、一回り成長していると慶次は感じていた。しかし慶次は、その頼みを聞き入れなかった。
「嫌です。ここで私がまたいなくなったら誰がぼろぼろの小六さんを背負っている武将さんを守るのですか?」
確かにそうだった。もし敵の数が多く、半兵衛で対応しきれなかった場合は、全滅の危険もある。
慶次もこの旅で成長していたのだ。腹黒慶次が人を思うようになったのかと思うと武将は親心のようなものを感じていた。
「わかった。慶次! 最後まで半兵衛と一緒に俺を守ってくれ」
「はい!」
なぜか二人同時に答えるのだった。
利家が、城に入ろうとしたその時、松之助が声を上げた。
「武将さんたちが帰ってきました」
それを聞いた利家は、急いで外へ出てきた。
「よう帰ったのう。そうか小六は傷を負っておるのだったな。すぐに休ませよう」
そう言うと利家は、小六を城内へと運ばせた。
小六を休ませたことによって、利家は、今までの変化に気づく。
「何だ! その娘は?」
「ああこいつか? こいつは竹中半兵衛。俺の新しい家臣であり、慶次の親友だ」
それに慶次が反応する。
「半兵衛は、ボロボロのところを私たちが保護したのです。また、前田のためにどうしても必要です。すみません叔母上様」
利家は、慶次に甘々だから許してくれるのはわかっていた。
「良かろう。竹中半兵衛とやらこれからは前田のために働いてくれ」
「わかりました。武将さんのために、いや前田家のためにこの半兵衛頑張ります!」
ここに竹中半兵衛が正式に前田家の家臣になった。
そして、すぐに軍議が行われるように準備がされていた。
「利家! 半兵衛は役に立つぞ。元は北条に仕えていた。そのため北条の情報は筒抜けだ。そして、何より相手の動きを制限付きだが自分のものにできる」
それを聞いた利家は、石垣の一部を家臣に持ってこさせた。
「これは儂が日々の鍛錬で積む時に使用する岩じゃ。見事これを破壊して見せよ」
この時武将は重要なことを伝え損ねていることに気づく。
「待て待て利家! 半兵衛は、一回相手を見てそれを自分のものにするんだ。やって見せないとできないんだ」
「そうかそうか。それはすまなかった。儂が先に見せよう」
構えをとると、地面が割れ始めた。
そして、利家は一気に腕を繰り出した。
すると、岩は粉々になった。
「どうじゃ? そなたもやって見せよ」
「はい!」
半兵衛が利家と同じような構えをとり、腕を繰り出すと、岩は大きく割れた。
「これは見事だな」
しかし、利家とは少し違った。地面は割れておらず、未だに怪力が持続している利家に対し、半兵衛は元に戻っていた。
「半兵衛は、技によっては、体への負担が激しい。あまり使わないでいいように工夫してほしい」
武将は、半兵衛のために利家に願い出るのだった。
「わかった。慶次の友は儂の友でもある。半兵衛! これからも頼んだぞ」
そして、軍議に戻った。
「武将…… 織田との同盟は成功したのか」
「ああ成功した。この同盟で前田は動きやすくなった。だが、織田は信用することはできない。後方への気配りをしつつ、敵と戦いたい。そして、小六の仇をうちたい。今川、北条の連合に前田の力を示したい。これが俺たちと慶次の決断だ」
その決断に利家は首を振らなかった。
「いいか武将…… そなたは戦を簡単に考えすぎじゃ。一回戦をするだけで数千、数万と兵が死ぬ。土地は荒れそこで暮らしている人たちはどうなるのじゃ。戦で愛する者を失った人たちはどうなるのじゃ。そなたも小六を失いそうになった時に思ったじゃろ! そこまで考えてこその軍師じゃ」
利家の目には涙が浮かんでいた。強気な利家が見せた涙に武将は心をうたれた。
「わかった。今回の戦は見送るが、小六が回復した時、そこから戦の準備に入る。これが条件だ」
そう言うと武将は軍議から抜けた。
「利家さん。私は武将を呼び戻してきます」
松之助が立とうとすると
「松! 構わん続けろ」
軍議の続きが行われるのだった。
この軍議では、防衛面での強化が話し合われた。そこで決まったのは次の四つである。
一.利家、慶次、松之助、武将の四将で国を東西南北の四つに分けて防衛する。
二.どこかの地点が攻められた場合、すぐに救援の伝令を出す。
三.織田が裏切った場合は、軍議でその後のことを話し合う。
四.四将に限り、人材不足を補うために自由に家臣を増やせる。
「皆いいか。一人のことを実現しようとすると国は滅ぶ。武将が言いたいこともわかるが、今は国策に力を入れる時。いづれくる大戦に備えてくれ」
この時利家はいずれ来る大戦を予感していた……