覚悟
一行は、小六が療養している寺を目指していた。
「武将さんすごいです。私はああいったことはできません」
半兵衛は、武将と信長の駆け引きに見入ってしまったようだった。とはいってもここの半兵衛は軍師ではなく、頭もきれないため状況を把握できないまま言っているようだった。
「まあ上を行かれないようにしただけだ」
「武将さんにしてはいい交渉だったと思いますよ」
慶次は自分がしたことのように語っている。
一行は二日で尾張を抜けて旧幕府領と今川領の国境付近まで来ていた。
「ここから今川領か…… また信玄が襲撃してくる可能性を考えると夜のうちに行けるところまで行こう」
「武将さんまさかびびっているのですか? だらしないですね。でも私と半兵衛がいるから安心ですよ」
確かに両サイドを歩く花は簡単に倒すことはできないだろうが、美少女に頼ることが許せない武将だった。
「そうですよ武将さん。敵は私が倒します」
半兵衛もどうやらやる気だった。そう思っていたのだが、今川からの攻撃を受けることはなかった。一行は三日目で小六のいる寺に着いた。
「小六、待っていたか! 迎えにき……小六!」
そこには、寝ている小六の姿があった。
「傷の治りが悪いみたいです。どんな刀で斬られましたか。傷口は塞がるどころか広がっています」
寺の住職が医者を呼んでいた。
「これでは今日…… いや、半日で命が尽きる可能性も……」
「何とかしてくれよ! お前は、医者なんだろ!」
武将は、珍しく冷静さを失っていた。
「信玄の刀にやられたのですね。私が何とかします」
半兵衛は、すっと前に出て小六の前に立った。
「何とかするって…… できるのか!」
「はい、私が北条にいた時、風魔小太郎に信玄の刀について対処法を聞いたことがあります。しかし、この方法は攻撃を受けてからすぐに対処できる術。時間が経った人を助けることができる保証はないです」
それでも、頼れるのが半兵衛だけだった武将は半兵衛にかけることにした。
「半兵衛…… 小六を頼む」
かすれるような声で武将は言った。
「小六さんの生きようとする思いと武将さんの思いが強いほど助かる確率は上がります」
そして、半兵衛は意識を集中することで、小六の意識に入ることができた。そこで見たものは、小六と何か影のようなものが戦う姿だった。
「なんだお前は! また敵というなら斬るぜ」
「待ってください。私は武将さんに言われてあなたを助けに来た竹中半兵衛です」
すると、小六は笑った。
「なんだまた家臣を増やしたのか。儂は先輩だからな」
「はい先輩! 私結構強いんですよ」
小六と半兵衛が戦闘態勢に入ると、影はどんどん合体していき、見たことのあるシルエットに変わった。
「武田信玄」
影のような信玄は、小六に斬りかかった。
「この影は、信玄の作るまやかしです。その信玄を倒すことができれば消えるはずです」
そう半兵衛は、小六にアドバイスした。
「そうか今一度動けないようにしてやる」
小六の纏うオーラが変わった。
「喜べ。痛みを感じることなく、一瞬で終わらせる」
小六は、斬りかかってくる影の信玄にカウンターで攻撃を入れた。信玄の影のようなものは消えた。
「お前の敗因は、戦い方を変えたことと覚悟の重さが違う」
信玄の影が消滅したことで闇の世界も消滅していく。
「ここから出ましょう」
半兵衛は目を覚ました。
「武将さん。小六さんは無事です。すぐに目を覚ますと思いますよ」
武将は小六と半兵衛の手を握り、一日中話すことはなかった。
「良かった半兵衛が無事で小六が無事で」
それはこの世界に来て、初めて流した涙だった。その涙がつたい、小六は目を覚ました。
「武将泣くなよ…… 儂はそなたを残して絶対に死なない。これからもそなたにずっと仕える」
「明日にも出発しよう。小六は俺が背負うから慶次と半兵衛は護衛を頼む」
そう言うと慶次は泣き出した。
「良かったですね。武将さん! 小六さんを失わずに済んで。私があの時城に戻らなければとずっと後悔していました」
それに小六は反論した。
「あの時はどう考えてもお前が適任だった。儂か武将では、後二日はかかっていた最善の選択だった。そしてあの程度で儂が死ぬかと思ったのか? それが間違いだ」
それを聞いて安心したのか慶次は泣き止み、武将にこう告げた。
「私たちの軍師はあなたです。これからは武将さんが最善の選択をお願いします」
その言葉には、重みがあり、武将はまた前田家が天下に近づいた気がした。
織田家との同盟を通して武将の配下の将と慶次の友情も深まった気がした。
そして一行は次の日の朝出発し、三日目の朝には、利家が待つ居城に戻るのだった。