信玄
武将は、珍しく日が明ける前に目を覚ましていたというよりも眠れなかっただった。用心深いとはいえ戦国の大ヒーロー織田信長に会えるというだけで一生分の運を使い果たした気がした。居ても立っても居られずそわそわしているところに小六がやってきた。
「武将今日はやけに早く起きたのう」
「同盟をどんな形で持っていくか考えていたらねむれなくなってな」
この世界の信長は「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」ではなく「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」に近いのか、この世界に天下人豊臣秀吉がいないことから信長の性格が自分の世界と違うのもうなずけた。
「会ってみないとどうなるか予想もつかないが、俺は俺にできることをして利家を天下人にするだけだ」
荷物の準備ができたところで小六と共に慶次が待つ城へと急いだ。
城に着くと慶次は松風と遊んでいた。松風は武将に気づき威嚇するが武将は噛みつかれないように隅を歩き慶次に近づいた。
犬と遊んでいる姿は美少女なのに腹黒いし、動きが速い、とんでも美少女である。
「武将さん遅いです」
慶次は怒っているが、武将は動じない。前であればその可愛さに負けて、何でもするからといいそうになっていたがもう慣れてしまった。しかし、腹黒美少女とはいえあの前田慶次と一緒に旅ができるということは嬉しかった。
「遅くなってすまない。また寝坊してな」
もっともらしい言い訳をした。
「そうだと思うか? 武将は同盟のことで頭がいっぱいで寝ることができなかったらしいぞ」
「そそそそうなんだよ ハハハ」
小六に言ったことは、嘘だということにも気づかず、そのまま慶次に伝えた。
「おお揃っておるな」
声に気づいた利家と松之助がやってきた。
「ああこの三人で前田の未来を切り拓いてくるぜ」
利家はそれを聞くと笑った。
「そうじゃのう。慶次がいて失敗するはずがないのう」
「はい必ずや同盟を結んできます」
その姿はなかなか勇ましく、そこに武将が好きな慶次の面影を見た。
「松之助、利家のことを頼んだぞ」
「はい必ず帰ってきてください皆さん」
利家と松之助に見送られて、一行は、旧幕府領鎌倉に向けて出発した。
鎌倉に行くには、今川領を通らなくてならなかった。
「おいおい慶次!どうやって今川領を越える気なんだよ!」
慶次はどや顔で答えた。
「なあに簡単なことですよ。関所に入る前に将軍の謁見に参上したと言えばいいのです。関所までは将軍が追放されたことは伝わってないと思います。それでも通してもらえない時は叔母上様がしたためた書状を見せて通らせてもらう。これなら確実ですよ」
それを聞いて武将は、何やら嫌な予感がした。そんなことを感じつつも、早いペースで移動して日が沈む前には国境に着くことができた。
「ではでは私は話をつけに行ってきますね」
慶次は関所の見張りに何かを話していた。
「おかしい……」
「何がだ小六」
もっともらしい答えが返ってきた。
「考えてもみてくれ、ここは国境だぞ見張りが一番いてもいい場所だと思う。見張りが少ないということは他の兵はどこにいる?」
「しまった。罠か!」
そのことに気づいた時には囲まれていた。そして三人は今川に捕まった。
「あなたたちどうしてこのような所までいらっしゃったのですか?」
見張りっていた兵は女だったのだ。
「そうかよ…… 最初から俺たちを罠にはめる気だったんだな。誰なんだあんたは」
「私か? 私は今川家家臣武田信玄だ!」
武田信玄は、漫画で描かれてる時には、大きめの体格で描かれていることが多いと思ったが、この信玄は赤髪美女という信玄とは思えない人物だった。
「その信玄さんが俺たちを捕まえてどうする気だ?」
信玄は笑いながら答えた。
「何をわかりきったことじゃ。お前ら三人を交渉の材料に前田を破滅させるのよ。今頃は義元様率いる別動隊が前田領に向けて進軍中だ。もう前田は今川を止めることはできない」
その答えに慶次は笑った。
「何か勘違いされていませんか? 私は忍者よりも速く走れますよ」
そう言うと慶次は、縄を抜けて利家の元へと走った。
慶次が抜けたことで縄は緩くなり、武将と小六も解放された。
「武将そなたに雑魚は任せる。儂はこの信玄と手合わせがしたい」
すると武将は一歩後ろに下がり構えた。
「雑魚は、俺に任せてお前は信玄を打ち負かせてこい」
「ああ恩にきる」
小六は信玄に斬りかかり戦いが始まるのだった。