アルテ
ノアがいなくなって、アルテは一人になった。
もう訪ねてくる足音も、勝手に扉を開けて「アルテ!」と自分を呼ぶ声も聞こえない。
あの日からずっと引きこもっている部屋で、試しに「ノア?」と呼んでみたが、もちろん返事は返って来なかった。
いつもノアが腰かけていた定位置のベッドに座って、ただただ一日ぼーっとする日々。
「俺が島から連れだしてやるよ……、一緒に…」
ある日、ずっと前にしたあの約束を小さく声に出して呟いた。
そのとたんにずっと止まっていた心が急速にぐるぐると激しく動き出して、両手で顔を覆い、うつむく。
ーーバカ、ノアホントにあんたバカね。最期まであんな約束気にして。
薄々分かってたじゃない、空から島を出るのはやっぱり無理だったってこと。
私も、あんたも口には絶対出さなかったけど。
だって私は、それでもういいと思ってたから。
この島から出られなくても、ノアとこうやって最期までいられればいいって。
ねぇ、ノア。あと1ヶ月だったじゃない。
私の料理これから毎日食べられるの、楽しみだって言ってたじゃない。
ノアがそんなこと言うから、私練習してたのよ。知ってたでしょ?
島を出るときは一緒だって、絶対2人で出ようって言ったじゃない。約束だって。
……あんた一人だけで先に行ってどうするのよ。私どうすればいいのよ。
「違う…」
違う。一番悪いのは私だ。病気に気付けなかった私だ。
自分がもっと早く気づいていれば、とそう思った瞬間、涙が次から次へとあふれ出てきた。
「っごめんなんて、あんたが謝る必要も、泣く必要なかったのに…ごめん、ごめん、私、病気……気づけなくてごめん……っ。……ノア!」
何度も、何度も、声が枯れてからも「ごめん」と言い続けたが、どれだけ謝っても一番伝えたい人には届かない。
何日、何ヶ月、何年。
どんなにアルテが嘆いても、泣いても、ノアは戻ってこなかった。
アルテが泣いたとき、慰めるようにいつも頭を撫でてくれたあの手も、笑顔も、ない。
ノアはもう、いない。




