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気になる男性客

作者: くろ
掲載日:2016/06/29

私の働いている喫茶店は「コネダ珈琲店」と言って、全国にチェーン展開している、割と有名なお店です。

2人掛け以上の席が多いためか、地域性なのかわかりませんが、家族連れや友達連れで来るお客さんが多いです。

1人掛け用の席も一応あります。

窓に面した長テーブルで、横に並んで5人まで座ることができます。

私の地域のコネダでは、この長テーブルを利用するお客さんはあまりいません。

その、あまり利用されない長テーブルを、毎週日曜日の朝10時ぐらいになると必ず利用する1人の男性客がいます。


彼の年齢は30代ぐらい。少し小柄で痩せ型。服装はだいたいいつも同じパーカー。中ほどまで伸びたストレートの黒髪。眼を合わせようとするとすぐに逸らされるので、あまり顔は見ないようにしています。その為、顔の印象はあまりハッキリと思い出せません。

これといって個性のない、地味な全体像なのですが、いつも少しだけ寝癖を立てていて、それがこちらの興味をそそります。

今日も寝癖を立てたままで入店した彼は、いつもの長テーブルに着席しました。


水を持って注文を聞きに行くと、テーブルの上に、これから読む予定であろう本を置いて、今はスマホをいじっていました。

「ご注文の方はお決まりでしょうか?」

「モーニングとブレンドコーヒーで」

「かしこまりました」

毎度のやり取りです。

彼は、必ず、こちらを見ない用事を作って注文をします。今日はスマホをいじっていて、先週は、メニュー表を見ながら、やはりいつものモーニングとブレンドコーヒーを頼むのでした。


その、いつものモーニングとブレンドコーヒーを持って席に向かおうとすると、彼が本を読み始めているのが遠目でわかりました。

近くまで行ったときに、別に覗くつもりはなかったのですが、本の中身が少し目に入ってしまいました。


びっくりしました。見覚えのある中身でした。

『THA雑談』というその本は、会話を中心としたコミュニケーションスキルの向上を目的とした、いわゆる自己啓発本で、口下手をコンプレックスとする私は、何回も読んだ本でした。


私の気配に気づいた彼は、開いた本のページにしおりを挟んで閉じ、頼んだものがテーブルに置かれるのを待ち「ご注文はお揃いでしょうか?」という問いに会釈だけで答えるのでした。


彼がしおりを挟んだページは中盤以降でした。読みやすい本なので、多分ここで全部読んで帰るんだろうなと思った瞬間、なぜか、後半以降のあるページの内容を思い出したい衝動に駆られました。

しかし、中々思い出せません。確か8章の…と、思い出しかけた時、団体のお客さんが入店し、対応に追われ、本のことは頭から離れてしまいました。


それから1時間程すると、彼が本をしまい、帰り支度を始めました。

反射的にレジに立つと、彼を意識したことでまた本の内容が気になり出しました。

彼がレジに近づく。なぜかドキドキします。レジで対面した時、そのドキドキの正体がわかりました。本の内容を思い出したからです。

お会計を終えると、いつもは無言で会釈だけをして店を後にする彼が、今日は少しぎこちなく「ごちそうさまでした」と眼を見て言ってきました。


彼が『THA雑談』の

『第8章 雑談トレーニング~その2、お会計の時に店員さんと一言話す』

を読んだことを私は確信しました。

そして、彼の歯並びが意外と整っていたということを、この時初めて知ったのでした。

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