一夏の夢
『ねえ、また会えたね。』
鈴香は確かにその声を聞いた。
(聞き覚えがある様な……)
そう考えた時、わかった。
7年前にいなくなった親友の声。
その声は空耳だったのだろうか?
記憶の奥底から聞こえてきたのだろうか?
それはわからなかった。
そして、親友が失踪する前の事を思い出していた。
✳︎
『ねえねえ、今日も秘密基地にいこ!』
親友、春川舞衣子はその日、そう誘った。
『うん、いいよ!』
この言葉を言わなければ今、鈴香は後悔してなかったのだろう。
舞衣子の他にも沢山の友達と一緒に秘密基地に行った。
ダム付近の林に洞窟があり、その中に秘密基地がある。
大人は全く《秘密基地》というものに子供達が行っている事を知らない。
悲劇とは予想外の事が度々起こる。
そして様々な原因で起こる。
その事故は子供達の好奇心、恐怖をあまり知らない事が原因で起こってしまった。
ダムの近くにある、その事も原因だったのだろう。
『ダムの出っ張りのような物を橋の様にわたってみようよ!』
『えー、そんなことして大丈夫なのかな?』
『大丈夫だよー!命綱だってつけるし!』
『うん、わかった!』
人の恐怖は時にスリルと言い、ごまかして楽しむ。
そして秘密基地にいる子供達全員が参加してしまった。
悲劇を知らなければ、トラウマを作らなかったのかもしれない。
『レッツゴー!』
『『おー!』』
雪の残る林を抜け、ダムの手すりに長い長いロープを結びつける。
だがそのロープは命綱としては強度が明らかに足らなかった。
当たり前だ。
子供が用意できるものでまともな命綱などあるわけがない。
列を作り、舞衣子が1番最後、鈴香は最後から2番目だった。
だが、もし命綱が個人個人別に結ばれていたら。
全員が巻き添えになり、ダムの底に落ちて行方不明、または死亡していただろう。
だが、舞衣子は渡り終わる直前に滑り落ちてしまった。
『あれっ。うわあわわわわっ!』
ㅤ鈴香は後ろから声が聞こえたので手を伸ばす。
ㅤだが、人が落ちるのは当然速い。
ㅤ手が届くわけがなかった。
ㅤ自分が飛び込もうとは思わなかった。自分たちが死ぬ訳がないと思っていたから。
そして聞こえた最後の声。重力に引かれて永遠と落ち続ける恐怖を感じたのだろう。
『あああああああぁぁぁぁぁ…………!』
その声が聞こえなくなり、鈴香達は舞衣子を探した。
子供達が探したところで見つかる筈はなく。
一旦鈴香達は帰ることにした。
✳︎
その事を親に話した鈴香。
親たちは驚き、鈴香を怒る。
泣きじゃくりながら全て話す。
秘密基地、ダムの出っ張り、命綱。
すぐさま鈴香の両親は電話を始める。
そして聞こえた言葉は
『舞衣子ちゃん、あんな高いとこから落ちたら死んでいるかもしれない……私達大人がしっかりとしていれば……!』
だった。
(もう、舞衣子ちゃんには会えないの?そんな、そんな……!)
そして翌日、母親はこう言った。
『舞衣子ちゃん、行方不明だって。生きている可能性もあるわよ。生きているって信じれば、きっとまた会えるわよ。』
それは気休めだったのだろうと今までの鈴香は思っている。
✳︎
数ヶ月後、舞衣子は見つからず、死亡扱いとなった。
そして葬式が行われた。
葬式には秘密基地にいたメンバー全員がいた。
みんな、泣いていた。
(あの時、しっかり、しっかり探していれば……!ごめんねまいちゃん、まいちゃんっ!)
『うえぇぇん』
鈴香も泣いてしまった。
もう会えない舞衣子のことを思って。
✳︎
(そうだ、もうまいちゃんはいないんだ……)
これはおそらく、一夏の夢なのだろう。
空に浮いている舞衣子を見て、鈴香はこう呟く。
「やっと会えたね。……っずず!ごめんねまいちゃんっ!」
『さよなら、すずちゃん。』
「行かないでよっ!もっと、もっと話したいよ!」
だが舞衣子は消えていく。
「まいちゃんっっっ!」
舞衣子は最後に手を振っていた。
こうして親友と再会ができた鈴香である。
だが、あんな事をしていなければ。
沢山の事を話せたのだろう。
そう思う鈴香だった。