忘れたらいけない、過去の事
そして、歌のレッスンにも入る。
歌の種類によって、使える魔法が変わってくるらしい。
だが、俺の家系上、炎の魔法ばかり習うらしく、それ以外の状態変化などはちゃんと習うそうだ。
「それでは、今回はテレポーテーションの歌ですね。別名、コングラッテの歌という名前があります。コングラッテという名前は、この歌を作った精霊の名前です。大抵歌の名前は、それを歌い、作り上げた精霊、もしくは人間の名前が付けられます」
それに、へぇ~・・・と声を漏らす。
人が魔法を作る事も出来るのか・・・
しかしまぁ、中々に珍しい名前だと思う。
「最近基礎トレーニングしかしていなかったですし、初めての魔法、頑張りましょうね」
そう言って、先生が歌詞と音符の書かれた紙を渡してくる。
それを見ると、先生がグランドピアノの椅子に座った。
「音程を弾くので、覚えて下さい。その後、ゆっくり覚えていきましょう」
「はい」
その曲は、まるで聞いたことのない様な曲調だった。
元々、あまり歌が得意出なかった俺は、それを歌うのに中々に苦労する。
・・・だけど、短い詩でありながら、その歌は中々に綺麗なものだった。
「いい感じです、レン様。今日はテレポートの歌を完璧に仕上げていきましょうね」
そう言われて、俺は頷いた。
確かに、テレポートが使えればとても役に立つと思う。
魔法としてはもっておきたいものだ。
そうしてその授業から、解放されたのは開始してから数時間後の事だった。
・・・仕方無いだろ!?
元々、俺はそこまで歌が得意な訳では無かったんだからっ!!
社会が出来ないのは、まぁ前向きな考えでいけば、仕方無いとまだ自分を励ませる。
だがしかし、歌は実技だ。
・・・俺の音痴がバレてしまう。
そう思い、講師の先生を見送った後、俺は部屋の机に突っ伏して深く落ち込んでいた。
そんな俺を、シオンは不思議そうに見つめている。
「・・・何」
「あ、いえ・・・!今日一日、坊ちゃんを見守らせて頂きましたが、やはりまだ子供らしい一面もあるのだなと・・・」
と言い放ってから、ハッとした様子を見せるシオン。
そして彼は、いえ、ですから、その、などと言って、酷く慌てた様子を見せていた。
「あ、あのですね!決して坊ちゃんを貶すなどした訳ではなく・・・!その、坊ちゃんは、本日の勉強全てを、軽々とこなしてしまったでしょう?一瞬にして、坊ちゃんが別の人になってしまった様に思えてしまって・・・」
「シオン・・・」
そうか・・・
前世の記憶のまま俺の意識が目覚めたのが、偶然今日なだけであって、昨日までの俺は、もしかしたら普通の、小さな子供だったのかもしれない。
だとすれば、シオンから見れば、これは急過ぎる成長だろう。
近くで成長を見守ってきた分、今の俺に、少し不安を感じさせてしまったのかもしれない。
「へ、変ですよね!坊ちゃんは坊ちゃんのままですし・・・子供の成長は早いと言いますから、少しばかり、寂しさを感じてしまったのかもしれません」
「・・・ごめんな、シオン」
「へ?」
俺が小さく漏らした言葉に、間の抜けた様な声を上げるシオン。
暫く、そんな彼を見つめてから、俺は苦笑を浮かべた。
「・・・俺、まだまだ子供だよ。シオンがいないと、何も出来ないし。だからその、これからも、よろしく」
そう言うと、彼は少し固まってから、はい!と、明るい笑顔で返事を返したのだった。
・・・シオン。
お前から、”幼いレン・アルシュテイン”を取ってしまって、ごめんな。