プロローグ
「これください。」
そういって俺は店に並べられたボロ衣同然の服をゆびさす。
「ボウズ、見ない顔だな。
・・・いいぜ。デバイス出してくれ。」
俺は肩にかけたデバイスと呼ばれる、黄色いペンダントを店のオッチャンに渡す。
そのペンダントには俺の今までの経歴が書かれている。
「黄色ってことはここの住民か。
俺もだ・・・・・って、」
オッチャンは俺の経歴を見て顔をしかめる。
「ちっ、人殺しかよ。30円だ。」
店の前には大きく「全品たったの20円」という文字が書かれている。
にもかかわらず、悪びれもせずに五割増しにするオッチャンに、俺は心の中でため息をついて30円差し出す。
「二度とくんな。」
帰りざまにそういわれるのを背中で聞き流しつつ、俺は家へと戻る。
少し、この世界について説明しよう。
2040年、餓死するほどに地球に人があふれかえっていたある年、土星から大量の隕石が地球へと降り注いだ。
地球は隕石の激突によって滅びる。
誰もが絶望したその日、宇宙からある信号が受信される。
「シニタクナケレバ、ワレワレニフクジュウヲチカエ。」
やっとのことで解読できたその文章に、
隕石のことで混乱していた世界中の政府は「イエス」を選択してしまった。
いよいよ隕石が地球に降り注ぐ日、「やはり誰かのいたずらか。」
人生最後の日を迎え、
狂気に満ち溢れた地球はテロ、強姦、窃盗、
もはや隕石が衝突するまでもなく文明は滅んでいた。
そんな中、たった一つのテレビ局が
「人生最後まで人々に情報を届け続ける。」
そんな立派なスローガンで隕石の落下の瞬間を放送した。
テロに狂った人間も、その映像だけは見逃すまいとテレビに見入り、
視聴率は人類史上最大の100パーセント。
そんな最後の歴史的瞬間
月の重力のせいか、若干スピードの落ちた隕石が画面に映る。
1秒もなかっただろう。
すさまじい速度で飛来したそれは、海上ぎりぎりで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・急停止した。
全人類の目が点になったことだろう。
結論を言おう。
土星から来たそれは、隕石などではなく宇宙人だった。
いや、侵略者だったというべきか。
もとより人類を助けるつもりなどなかった土星からの贈り物たちは、人類の99パーセントを駆逐。
残りの1パーセントを太平洋上に作った、全七層からなる塔に閉じ込めた。
中に閉じ込められた人類に彼らはこう告げる。
「オマエラハ、コノホウリツデ、イキロ。」
1、他人のデバイスを壊してはならない。
2、他人のデバイスと交換することは許されない。
3、他人のデバイスを奪ってはいけない。
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ほとんどがデバイスとやらについて書かれた法律に、人類は困惑。
それよりも、塔にいる全員に配られたデバイスと、その説明書が重要だった。
大雑把になるかもしれないが、ここに明記する。
人類はデバイスにより七つの身分に分けられる。
第一身分、塔の中ではどこでも住める。第二身分以下から攻撃された場合、デバイスで通報すれば瞬時に身の安全は確保される。
第二身分、塔の中では最上階の第一階層以下に住める。第三身分以下から攻撃された場合、デバイスで通報すれば瞬時に身の安全は保障される。
第三身分、塔の中では第二階層以下に住める。第四身分から攻撃された場合、デバイスで通報すれば瞬時に身の安全は確保される。
第四身分、〃
第五身分、〃
第六身分、〃
第七身分、塔の中では最下層にあたる第七階層に住める。何があっても攻撃してはならない。
また、それぞれの身分に応じてデバイスの色は異なっていて、
上から順に黒、金、銀、銅、赤、黄、青になっている。
人類が死ぬ、生まれるたびにデバイスは回収、付与され、二人の親の中間の身分になる。(小数切捨て)
では一生同じ身分なのかというと、そうでもなく。
第一身分はほかの身分を自由に操作できる。
第四身分以上は自分の身分を三つ下げる代わりに、ほかの一人の身分を一つ上げることができる。
といった特記事項がある。
残念なことに第一身分の者たちは、全員を同じ身分にするつもりはないようだが。
まあ、人間そんなものだろう。
時間とは恐ろしいもので、どんな状況にも人をなれさせてしまう。
ああ、家についた。
ここは第六階層の住宅街。
生ごみと錆びたプレハブのにおいが立ち込める太陽の見えないスラムである。