【戦士とチカラ・5】
邪夢の掃討を終えた二人は家の二階の押し入れに侵入。壁にあいた穴からネズミのようにスキマを走り、壁の空間や屋根裏を抜けて瓦の屋根から顔を出す。塀を伝い、隣家に向かう。
煌々と光る月夜に照らされて、跳ねる姿はウサギにも負けぬ跳躍をもってまた屋根に登り、二階の部屋の窓へ近付く。……と、ヒトの声がガラス越しに聞こえて来る。
やたらと明るい女性の声だが、部屋の電気は消えているようだ。窓から中の様子を伺う。
薄明かりの照明、乱雑に積まれたマンガと書籍。家庭用ゲーム機の操作する機械やソフトの山。
ベッドには膨らみが有り、ヒトが眠っている頭が見える。
その中で、軽快な音楽と共に先程の女性の声が響く。
『漆原めぐみの東京ドゥギーナイト! この番組は星わっぱレーベルでお馴染みのおやびんレコードがお送り致します』
どうやら声の主はラジオから流れるDJのようだ。
『皆さん今晩わ漆原めぐみです一週間のご無沙汰いかがお過ごしだったでしょうか~?』
やたらと元気のいい声が、毎週言っているのであろう馴染んだセリフを転がしている。
レンが窓から一番近い位置にある本棚に向かって手を振ると、中からムラサキ色をしたトンガリ帽子を被った小人が顔を出す。
レンに向かって手振りと指差しで合図を送る、部屋の西側に来るように言っているようだ。
屋根を走ってそちらに行くと、屋根と外壁の隙間から先程のムラサキ小人が現れた。
「レン!それにジンも居るじゃないか!」
細面で勉強がよく出来そうな顔立ちをしている。メガネを掛けたらよく似合いそうだ。
「マサル、ちょっと話がある。この班のリーダー誰だ?」
レンが言うと、マサルと呼ばれたムラサキ帽子はバツが悪そうに言った。
「以前は僕だったんだけど、今はオードリーだ」
「はぁ?オードリー?あのピンクバカか。女の尻に敷かれてんじゃねーよ、お前なら話が早かったのに」
「面目ない。この家に来てからやたらと仕切り出してさ、一緒の班の奴も手なずけて言うこと聞かないんだ」
「大体は想像つくよ。理由もな。ちょっと上がらせてもらうぜ」
言うとレンは隙間から家の中に侵入した。後にジンとマサルが続く。
壁の内側にある空洞から屋根裏を通り、部屋に近付く。徐々に聞こえて来るラジオDJの声が大きくなり、鮮明に響く。押入れの隙間から内部に侵入すると、ラジオからはポップな曲が響き始めていた。
部屋の隅にあるテレビとその台の上で、三人の小人の姿があった。
ヒトから見えないように、テレビのモニターを隠れ蓑にして並んで座っている。足を投げ出して幾分リラックスしている雰囲気だ。
ピンク、黄色、オレンジ。三つの帽子と衣装が揺れて……音楽に聞きいって居る。
ピンクの小人は髪の長い女の子で、黄色は少し小太りな体格の男の子。オレンジはツンツンした短髪で背が低い、こちらも男の子だ。
レンは三人の背後に回り込み、脅かすように声を掛ける。
「おい、ご機嫌じゃないか。楽しいか?ニンゲンのラジオは」
わっと声を上げて振り向く三人。
黄色とオレンジが這々の体で逃げ出してテレビの陰に無理やり隠れようとする中、ピンクの帽子はいち早く立ち上がり、レンに詰め寄る。
「アンタが何でこんなトコに居るのよ!担当は隣りでしょ!」
ピンク帽子のオードリーは女の子の割りに強気で迫って来る。
レンはそれをさらに強気で返す。
「質問してんのはコッチなんだよ。大方夢珠の管理サボって深夜ラジオやテレビでも見て楽しんでるんだろうが!」
「サボってなんかないわよ!ニンゲンが眠るまで監視するのも仕事の内だし、ラジオは私達が勝手に消せないのはキマリなんだから仕方ないでしょう!」
「おお、都合のいいキマリで良かったな。じゃあこの部屋のスペースで四人も待機してる理由はなんだよ、どー見ても二人で充分だろうが!」
「そ、それは……」
オードリーの視線が泳ぐ。図星だった。
言い訳する材料を探して辺りを見たが、該当する物はなく、代わりに目に入って来たのはレンの後ろに立つ青い帽子の小人だった。
「ジン様!!」
名前を叫ぶと目の前の赤い帽子を突き飛ばして青帽子のジンに飛びつく。
「どうしてこんな所へ?ジン様もしかして私に会いに来てくれたのですか!?オードリーは嬉しいですわ!嬉しいですわ!」
突き飛ばされて危うく落ちそうになったレンが叫ぶ。
「おい!ゴマかすんじゃねぇ!」
抱きしめられて動けないジンが片手を上げてレンを止める。ちょっと待てと。
ジンは至近距離からオードリーを見つめながら言った。
「漆原さんのラジオ面白いよね。僕も大好きさ」
それに弾かれるようにオードリー。
「本当ですかジン様!私はもう1年も前から欠かさずに聞いてますのよ!毎週ちゃんと聞いているニンゲンを見つけては特等席を確保して、時間帯によってはその前の【内田ユウキの夜空に you Kiss】から聞いていますわ!今では仲間も増えましてよ!ジン様も今日から仲間入りですのね!」
……
……
……あれ?
「うん、よくわかったから、オマエラチョット協力シロ」
「ジン様、レン君がこわい」
オードリーの肩を掴むレンの手が震えるのは怒りなのかオードリー自身の恐怖からなのか。