【戦士とチカラ・4】
今夜のレンは燃えていた。
いつにも増して好戦的に邪夢を見付け、暗がりの中で容赦なくトロいゴム毬を斬り伏せて行く。
「うぉおおおぉりゃああ!!」
疾駆する。
先ずは大剣の大振りで邪夢の丸い巨体を吹っ飛ばし、壁際に運ぶ。
スライディングで足払い。
ダウンした所を下段連続斬りで徐々に斬り上げて壁に押し付けながら浮かせる。
「オラオラオラオラぁああ」
完全に浮いたら部屋の壁に押し当てたまま、ジャンプ一番で蹴り、蹴り、殴り、殴り、横速斬、タメて脳天振下ろし、着地からバウンド拾って、
「風車ぁ!!」
大剣を振り上げた勢いを殺さずに下から巻き上げるように縦回転して三度斬り上げる。
会心の当たりを魅せると邪夢はタテ四枚に空中分断されて果てた。
「ノッテるぅ~♪」
ジンが闇色の残光を眺めながら口笛を吹いた。
援護を頼まれたのだが、羨望の眼差しと賛辞の言葉を送るのみで、実はすでにやることがない。
数時間前、
小人達の集会で今夜の割り振りが決定され、各自に言い渡された。
確認のために配られた紙に記された配置図を見て、レンとジンはニヤリと笑う。
当初の目的通り、北東部の【夜の部】の中で自分達の上官に当たる、配置権限の持ち主、一番隊リーダー・シュワルツに先ずは直接願い出た。
「頼むよ!俺たちを中島家に行かせてくれ!」
レンの直球過ぎる願いは軽くあしらわれた。
「ダメに決まってるだろ。もう応援が呼んであるのはお前達も知っているだろう?あそこは任せておけ。だいたい自分達の持ち場があるだろう」
歴戦の勇士であり、かつてエースと呼ばれたシュワルツは皆から今も慕われる往年の老兵だ。
老兵と言っても鍛えられた肉体は強靭でまだまだ現役を保っている。
「見学だけでもいいから!邪魔なんかしないからさ!」
レンは尚も食い下がる。
その隣でジンが瞳をウルウルさせて泣き落とし作戦を密かに展開している。
「見学?何をそんなに見たいんだ?」
「俺たちまだ、そんなに強い邪夢を見たこと無いんだ!他の部から来る人達は強いんだろ?倒されちまったら次はいつ見るチャンスがあるんだよ!」
「うむぅ……」
シュワルツの眉根が寄る。
「お前達の強さは確かに並外れてはいるが……まだ若いからなぁ。まぁ、気持ちがわからんわけではない。私もそうだったからな。見るだけならいいか」
「やった!」
「やったねレン!さすがシュワルツ話がわかる!」
歓喜する二人。
シュワルツは二人に向かって釘を刺す。
「ただし、見るだけだ。戦闘は許可しないからな。もし危ない様子なら戦わずに逃げろよ」
『わかった』
ハモる二人。
「それから自分の持ち場もちゃんとやってもらう。特別に中島家のすぐ近くの家に配置を変えてやるから、そこをちゃんとカタ付けてから見に行くこと」
「うわ、早くやっつけないと、行った時には既に終わってるかもしれないじゃん」
ジンが目を丸くしたが、レンはさほど気にしていないようで、
「オッケー、オッケー。上等だよ」
ニヤリと笑って言った。
そして集会で配られた配置図の紙には、中島家の二軒離れた場所にジンとレンの名前があった。
顔を見合う二人が笑顔を確認する。
これならば猫を使わなくても数分で行ける距離だ。
何よりも、レンが目を付けたのは、中島家と自分達の現場の家に挟まれた、もう一つの家によく知る仲間の名前があった事だ。しかも少し大きな家だからなのか、六人体制である。人数も多い。
「俺に考えがある」
そう言ったレンの提案は決して約束を反故にする物ではなかった。
最初に自分達の担当の邪夢を片付ける。
安全を確認した後、隣に行って六人と合流。その家に居る邪夢を排除。
そこから人数を分けて二人か三人を自分達の方の家に向かわせて夢珠の回収と管理を頼む。
邪夢を排除した後の家は安全で、新たに悪夢から産まれない限りは邪夢は来ない。
人間が悪夢を見るようであれば、形を成す前、産まれる前のタマゴ状態で破壊すればいいので、見張りを怠らなければ、安全に成果だけを得られる。という算段だ。
自分達の現場の成果を無しにするのはもったいないし、仲間も手伝うのだから、余計な事だと怒られる事も無いだろう。
必然的に、二軒分の邪夢討伐をする事になるのだが、夢珠の回収を考え無くていいからその方が楽だとレンは言い切った。
「よっしゃ、隣の家に行こうぜ」
大剣を肩に担いでレンが振り向く。
「1匹だけだとやること無くて困るよ」
ジンはあくびしながら本棚を降り始めた。引き出しの取っ手に足が届かずに結局ジャンプしてみたり。これから長い夜を過ごす羽目になるなど思いもしなかった青帽子。