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【帰還・7】

 

「オードリー、やっぱり無理があるよ」

 部屋のテレビ台の片隅でマサルは無表情に言った。

「うるさいわね」

 オードリーは相変わらずのカカァ天下を見せており、ラジオから流れる人気芸能人内田ユウキの声にのみ集中し、マサルの愚痴も聞く耳を持たない。

「レンとジンをウチの班に入れるってのも勝手に書いてるし、二人が帰って来てシュワルツに挨拶もしないで直接現場に入るわけないじゃん」

 マサルとオードリーは自分達が襲われたあの部屋に居た。新調した装備の見た目とレン達の名前でシュワルツを丸め込み、六人居た班を八人に膨らませて強化された部隊であるとのたまった。

「もうアレから一週間、二人の謹慎も解けるし丁度いいじゃないの。第一今日はラジオの日なのよ?どんな事をしてでもラジオの前に立つのがリスナー魂ってもんでしょ」

 二人の眼前に眠る人間はあの日と同じように、一週間前の風景を繰り返している。

 ラジオから流れるDJの声は、相変わらず軽快で楽天だ。

「出動禁止命令だし、あと1日あるし」

「誰も覚えてないわよ。当のシュワルツ本人がそうかそうかってガハハハ笑ってたじゃない」

「レン達が今すぐ帰って来てシュワルツに会ったら僕たちアウトだよ」

「そうならない事を祈ってなさい」

「無理だ、絶対ムリだ」

「うるさい!you kiss が聞こえない!」

「レン達に怒られて、シュワルツにも怒られて、ダブルパンチだよ」

「ボソボソと女々しいわねー、男でしょ!」

「よう、楽しそうだな?」

 突然投げ掛けられた声に一瞬だけ固まるマサルとオードリー。

 振り向くとそこには赤い帽子のトレードマーク。

「レン!いつ帰ってきたの!」

「ジン様はどこ!?」

「まぁ、待てよ。って相変わらずの失礼さだよな、お前わ」

 冷たく睨むレンの背後にジンの姿を見つけてオードリーは赤帽子を突き飛ばして跳躍した。

「ジンさまぁ〜ん❤︎」

「うわっぷ!ただいま、オードリー」

 抱きついてきたオードリーを受け止め、返す笑顔。

「ずっと!ずっと毎日ジン様の事だけ!を想っておりましたわ!いつ帰るのか、会いたくて会いたくて震えておりましたわ!」

「だけって強調したな、今」

 レンが震えている。

 それをなだめるマサル。

「レン、今帰って来たの?」

「ああ、まだ本部には帰ってないんだけど、帰る途中でこの近くまで飛んで来たからさ、時間的にもしかしたら居るかと思ってさ」

「良かった!!助かったよ!」

「はぁ?何が?」

「あ、ああ、コッチの事……あ、その防具かっこいいね!僕も新調したんだよ!」

 都会で手に入れた装備や、新調したばかりの装備をお互いに見せ合い始めるマサルとレン。マサルは何かをうやむやにした。

「あのぅー、今晩わ、皆さん初めまして……」

 ジンに続くように姿を現した黄色い服の小人、緑色の長い髪。

「あ、紹介するよ、東京で知り合ったんだ。彼女はモーリス。こっちがオードリーで、紫色の帽子がマサル」

 ジンが和かに紹介すると、ジンに抱きついていたオードリーが突然叫ぶ。

「 ぃいやぁー!!ジン様ったら浮気モノ〜!!」

 もはやエンディングを迎えた内田ユウキの番組には集中力もなく、次に始まるのは漆原めぐみの番組だったがオードリーは狂気乱舞する。

「何なんですのこの女は!私という者がありながら他の女に手を出してあまつさえお持ち帰りなんて!」

「ち、ちがう、そんなんじゃなぐ、ぐるじいぐるじいょ」

 ジンが絞め殺されつつある後ろで、モーリスはラジオから流れる声に聞き入った。今まですぐ近くで聞いていた声に、懐かしさと新鮮さを感じる。ラジオで番組をやっているのは知っていたが、実際に漆原のラジオを聞くのは初めてだ。


「レン?まさか人間に見つかったんじゃないの?」

「そんなわけないだろー、セーフだ、セーフ」


「モーリス?どうしたの?悲しいの?」

「ジン様、ゴマかさないで!何よこの女は!泣いて気を引こうなんて、見え見えよ!」


 涙を拭うモーリス。

 ニコリと微笑んで言った。

「私、一人じゃないんだって思ったの」

「はぁ?見ればわかるでしょ?」

 オードリーの言葉に、モーリスは頷く。


 部屋に入って来るオレンジや黄色のとんがり帽子たち。

 赤い帽子とムラサキと、青にピンク。

 目の前に並ぶ、小さくてカラフルな帽子たち。モーリスは何色にしようかと、提案を新たなる仲間に投げ掛けるのだった。




 ☆ ☆ ☆



 フクロウの背中に乗りながら、レオンとエンジュは街の空をゆっくりと飛行していた。

 ジンに聞いた街の北東部地区の本部を目指している。

「私達も他の仲間たちに会いたかったわ」

 エンジュが残念を口にしてレオンの背中に寄りかかる。

「また明日だな。治療を受けたばかりの体で邪夢に遭遇するのは良くない。一足先にリーダーに挨拶だ」

「そういえば、ジンが明日、探偵ゴッコに付き合って欲しいって言ってたわ」

「探偵ゴッコ?何の遊びだ?」

「さぁて、何でしょうネ」

 首をかしげるエンジュ、レオン達を乗せた茶色いフクロウは月夜の中を滑空して行った。



 ☆ ☆ ☆



「ジン様、待ちなさ〜い!」


「ちょっと!オードリーそんな場合じゃなくて邪夢が来てる!あそこにホラ!」


「よーっし、一丁やるか!行くぞジン!モーリス!」


「了解、私がレンの援護するわ、新しい技、皆さんに見せてあげて」


「じゃあ私がジン様の援護を致しますわ〜!あの女より役に立ってみせましてよ」





 今宵もまた、月は登り輝く。数多の囁きを従え、地上の小さな生命達に眠りを誘う。

 ヒトもまた眠りにつく。

 夜は更けていく……


 今夜もヒトは夢を見る。


 彼らはそれを守護する戦士。


 夢防人(ゆめさきもり)という。






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