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【帰還・5】

 

 組織『アレックス』に戻ったジン達は、ネコバスの改善案を含めてテスに会って報告をした。夢珠の回収結果と、【コトダマ】の力を無事に手に入れた事、そしてハルオの事を話すと、テスは一安心といった表情で支配人アレックスに取り次いで短い連絡を入れる。施設の中で電話を真似した通信機器のような物を使用しているが、夢珠から創ったもので、電気系統の回路は無い。話すマイクと聞くスピーカー部分があれば機能は自由に変えられる。

「お二人がご無事で何よりでした。まだ戻っていない護衛班もその内に戻るでしょう。どうぞ奥でお休み下さい。モーリスさんも無事で良かったわ、一緒に奥へ。後ほどアレックスが伺うそうです」

 テスは二階の奥にある客室に三人を案内した。

 広々としたリビングには大きなソファが並び、飲み物やお菓子などがすでに用意されている。

 ジン達が戻って来た時から、客室に通される事を予期していたという事だ。

 三人が部屋で武装を解き始めるとテスは短く声を掛けて退室した。

 モーリスが結んでいた髪を戻してソファに座りながら言う。

「ジュンさん達、大丈夫かしら?」

 防具を剥ぎ取りながらソファに身を投げるレン。

「まぁ、大丈夫だろ。それよりネコバスはもう乗りたくないー」

 ジンも頭を押さえてソファにうずくまる。

 回収してきた夢珠を袋から取り出してソファに囲まれた中央のテーブルの上に並べていくモーリス。

 大玉が一つ、中玉が一つ、小玉が六つ。

 大玉と中玉、そして小玉二つは漆原めぐみの夢珠。あとはその子供と夫から回収した物だ。


 しばらくして、ノックと共に客室のドアが軽快に開き、支配人アレックスが登場した。従者もなく一人きりで。

「無事にお戻り下さいましたね!お疲れ様でした。いやぁ~、良かった良かった。成果もバッチリでしたか?おや、見事な大玉ですねぇ!これがあの貴重な【コトダマ】ですか?」

 アレックスはワザとらしく見える程にオーバーリアクションで夢珠をマジマジと眺める。

 ジンがアレックスに向き直り、座る場所を変えて促した。

 アレックスがソファに掛け、その対面に三人が並ぶ。

 ジンが口を開く。

「アレックスさん、今回のご協力に心から感謝します。当初の目的通り、レンがチカラを得る事が出来ました。それで色々と甘えてしまって何なんですが、まだあと二つ程、お願いしたい事が有るんです」

「いや、三つだ」

「レン、それは後にして」

「二つでも三つでも、何なりとおっしゃって下さい!今、テスを呼びましょう」

「ああ、大丈夫、それには及びません。一つ目は、今回持ち帰った夢珠の事です。今回の戦闘中に、必要になったのもあるんですが、すでに中玉を一つ、レンが使いました」

「構いませんよ。能力を得る為です」

「厚かましいお願いなのですが、さらにお土産にもう一つ、戴きたいのです」

「この大玉ですね?どうぞどうぞ!構いませんよ。初めから回収した夢珠は全て差し上げるつもりでおりました。今回の夢珠は全てご自由に持ち帰って下さい」

「あ、いえ、この漆原めぐみの小玉が一つ戴ければ。それで満足です。私達が帰る道中、荷物になってしまいますし、貴重な夢珠で予約待ちの状態でしょう。あとはアレックスさんの方で収めて下さい」

 これにはアレックスもレンもモーリスも驚いた。

 能力を秘めた夢珠よりも、小さな夢珠を一つだと言うのだ。帰りの荷物とは言うが、背負い袋で充分持ち帰ることが出来る量でもある。

「それは、また……こちらとしては大変有り難い申し出ですが……ジン様の方で今から使う物かと思っていたんですが……?」

「いえ、私はまだ技が未熟です。今はレンがチカラを得てくれれば、私の街にも役に立つに充分です」

「おいジン、もったいね~ょ」

「うるさい。いいったらいいの。実は友人に漆原めぐみのファンが居まして。その子に頼まれたんです。『お土産は漆原めぐみの夢珠の小』って。ほら、大玉や中玉って、許可がないと持っていられないし、許可取らないならすぐに使わないとダメでしょ?その子はコレクションが目的ですから、小玉のが都合が良いんですよ」

「ああ~、ナルホド、そうですか。それならば有り難く、他の夢珠はこちらで管理に回しましょう」

 アレックスが笑顔で言うと、レンが諦めたようで、首で天を仰いだ。ジンが頑固なのはよく知っている。諦めるしかない。

「それで、もう一つとは?」

 アレックスが言葉を促す。

「はい、仲間の事です。今回の戦闘で護衛組のハルオさんが戦闘不能に陥りました。回復にはかなりの時間がかかると思います」

「知っています」

「同時に私達は、現場で二人の戦士と出会い、味方に付ける事が出来ました。彼らは未所属で、私達に協力したいと言ってくれています」

「ほう、二人の戦士?」

「かなり強い戦士達です。実力としてはお借りした護衛組三人と同等かそれ以上かと」

「それは強力ですね」

「そこでお願いです。アレックスさんの組織に所属する、こちらに居るモーリスと、その戦士二人、交換してくれませんか?」

「……え?」

 アレックスが言葉を失う。

 モーリスも絶句している。

「ぷっ、あはははは!」

 レンは笑い出した。

 ジンはモーリスを組織から抜けさせて連れて行く、その代わりにレオンとエンジュを引き取れと言っているのだ。

「ハルオさんが倒れて、モーリスが居なくなると二人分の空きが出来ちゃうでしょ?だからその二人を補充としてココの組織に入れて貰うという事は出来ませんか?」

 アレックスは即答しない。

 口元で両手を組んで思考する。

 組織に所属するのは戦士の自由意思だ。支配人だからとてそれにイエスもノーも無い。

 だが組織に入る為には素性や過去の戦歴を審査する必要がある。つまり、以前の組織から抜け、一時的とはいえ暗い過去を抱えたレオンとエンジュは普通の組織からは敬遠される存在でもある。という事だ。

 だが、今のレオン達二人はモーリスとジンの【誓約】のチカラでのみ、その意識を持ち直した状態だ。そのチカラが弱まり、消えてしまう前に、こういう設備の整った組織で改めて夢珠を使い、処置をする必要がある。


(…… ジン君は意外と策士だな。その二人、かなり厄介だと見える。それとも、ただの仲間想いと取るべきか?……とにかく、あげようとした夢珠を返されてはこちらの『恩』が足りなさすぎる)


 アレックスはジンの住む田舎組織に取り入りたい思いがある。ジンにここで出来るだけ恩を売り、田舎組織に取り入る足掛かりにしたいのだ。

 思案するアレックスが口を開こうとした時、ノックと共に客室のドアが開いた。



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