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【帰還・2】

 伸縮性のある長い触手が床を叩く。その度に青い光の矢が触手に突き刺さり、その動きを縫いとめる。

 脈動する体躯から新たな触手を生やした邪夢は、再び周りを囲む夢防人達を捕らえようと触手を振るう。

 だが新たに触手を増やした瞬間に、青い光の矢がまたも突き刺さり、触手に光のマーキングを施す。

 マーキングされた触手は闇夜の部屋でも視認しやすく、夢防人達は難なくその攻撃を躱す事が出来る。

 躱された触手は床を叩く。

 いつしか動きを制限された邪夢は、不快な声で不満の意思を奏でていた。


 モーリスは手にした光のリングを邪夢達に投げた。そのリングは瞬く間にサイズを数十倍に広げ、邪夢の身体に輪投げの的のように収まる。

 丸い体躯にリングを付けた惑星を思わせる姿が二つ、夢防人達の目の前に出来上がる。

「リングの中心には光の力を集中させてあるから、しばらくの間はコレで動けないハズよ!」

 モーリスの声にジュンとチョウサクが武器を手に突撃する。

 触手を縫い付けられ、リングの力で動きを抑制された邪夢は苦しみの不協和音を撒き散らす。

 その体躯に剣と槍が交互に突き立てられる。トドメとばかりにジンの青い閃光が走り、邪夢の核とも言える『眼』を貫き、ソフトボール程の小さい邪夢は、闇色の光の粒になってその体躯を崩壊させた。


 その隣で同じようにリングの阻害を受けていた、ハンドボール並みに大きい邪夢が大量の触手を全方位に向かってつき伸ばす。巨大なウニかイガ栗に変貌した邪夢は、光のリングを破壊して動き出した。

 モーリスが叫ぶ。

「ごめん!リングが大きくなると光の力が弱まるから、このサイズは長く持たないわ!散開して!」

 ジュンとチョウサクが邪夢を囲みつつ距離を取る。

 振るわれる触手にはジンのマーキングが施されてはいるが、大量に増えた触手が全て光っているわけではない。

 その全てを射抜くにはまだ時間がかかりそうだ。

 ジンの声が戦友を呼んだ。

「レン!やれそうならサッサと今すぐやって!!」

 呼ばれた赤帽子は苦笑いを見せながら走り出す。

「何だその言い方は!もっと違う言い方あんだろ!?」

「無い!」

「有りません!」

「待てません!」

「お願いいたします!」

 ジン、モーリス、ジュン、チョウサク。順番に返す声に、レンが苦笑をやめて真顔に変わった。

 大剣を構える。

「せっかくカッコイイ技で締めてやろうってのに!もっとお膳立てしろよな!」

 レンが言うと即座にジン達が叫んだ。

「さっきハズしましたよね!?」

「二度目でしょコレ!?」

「もう待てません!!」

「今度こそお願いします!!」

「うるせぇお前ら!見てろよチクショー!」

 レンは二度目の大剣を構え、二度目の集中に入る。


 大剣からほとばしる紅い光。

 それはレンの身体に渦巻き、螺旋を描く。

 紅光は頭上で揺らぎ、炎を型取りながら一つの文字を成し、宙空に現していった。




 ━━━【 (メツ) 】━━━




 (ほろ)びを意味する破壊的な言葉、

 それは存在を否定し、生命の礎を崩壊へ導く言葉だ。

 大剣は頭上に掲げられ、文字を炎の業火に変えて刀身に纏う。


 それを見ていた周りの防人達が青ざめて後ずさる。


「さっきと同じ文字じゃないか!」

「どうして使えもしないモノを選びたがるの!?」

「またこっちに飛んで来るぞ!」

「やめて下さいお願いします!!」


 レンは二度目のチカラを大剣に込め、衝撃波として打ち出す……のではなく、身体ごと駆け抜けて邪夢の巨体に向かって突撃した。

 振り下ろした刃は邪夢の突き出した触手に触れると、触手の細胞を粉微塵に崩壊させる。

 大剣を水平に構え、捻り込むように邪夢の眼に突き刺して、うねり動く体表から中心に向かって剣の根元までひと息に押し込む。

 剣からほとばしる閃光は(くれない)にアカく染まり、カラダから吹き出す血液に似た凄惨な終焉をもって邪夢の眠りへと変えた。

 丸い体躯は粉塵となって飛散し、粒子は闇色の粒に変わりながら部屋の闇に霧散してまぎれて消え入った。


 存在が消滅され、大剣を振り回して床に突き刺し、決めポーズを取るレン。


 駆け寄る仲間たち。


 自慢気に笑うレンに、一番早く駆け寄ったモーリスが脳天からグーで殴った。


「いっってぇ!!」


「そういうヤバい文字はもっと慣れてから使いなさいよ!!」


「ちゃんとやっつけたろうが!」


 反抗する赤帽子を次々にグーで殴る仲間たち。


 決して、全力ではないのが幸いである。





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