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【凶戦士・12】

 

 レンは振り抜いた大剣を引き寄せ遠心力を小さくして回転させながら見事な身のこなしをみせる。赤帽子を揺らしながら、大剣を最大重量に変え、床に突き立てる。それを支点として跳躍した身体を急停止させた。

「何だぁ?」

 ジンの矢が当たったらしいのは解るが、光り出した敵と、降ってきた女の子の様子が理解出来ない。何故か目の前でイチャイチャ……はしてないが、抱き留められている。

 頭にハテナ?を浮かべるレンを置いて、抱き合う二人。

「エンジュ!本当にエンジュなのか!?体が元に戻っているじゃないか!ああ、何が起きたんだ!」

「レオン、レオンなのね!ずっと(まぼろし)の中を彷徨(さまよ)っていたみたいだわ、レオンに触れてレオンの体温を感じてる!」

「エンジュの体、匂い、温もり、俺も感じているよ!」

「レオン!レオンレオンわたしのレオン!!」

「エンジュ!声が出ているよ、君の声がちゃんと聞こえる!聖夜の鈴の音よりも美しい、俺の耳の奥まで震える天使の歌声のようだ!」

「レオン……」

「エンジュ……」


 ……

 ……

 ……イチャイチャしている。



 レンが毒気を抜かれて(ほう)けている。

「あー、うわぁー、あ、あーんなことや、ああんなコトまで、うひゃあー、さっきまで殺伐としてたのにいきなりラブラブだぁ~」

 (あき)れて見ている。

 本棚から降りてきたモーリスが走り寄る。レンの隣に立ち、

「あらあら、あんなに抱き合ってちゃ夢珠が潰れちゃうわ」

 一緒に呆れる。

 赤銅鎧は動きを止めて立ち尽くし、飾り物の鎧のように鎮座している。

 レンがモーリスに尋ねる。

「何をしたんだ?」

 モーリスも明確には分かり兼ねるようで、両肩を上げて首をすぼませた。

「ジンの言う通りにしただけよ。……とりあえず、もう敵意は無さそうね」

 モーリスの声に、レンが戦闘態勢を解こうとした瞬間、男達の声が廊下から響いて来た。


「ジュン!小さい方もあっちに行ったぞ!」

「チョウサク走れ!このまま二体ともおびき寄せるんだ!」


 廊下で邪夢と戦う護衛組の声だ。

 レンとモーリス、離れた場所でジンが寝室の入口に目を向けると、こちらに背中を向けながら後ずさり、駆けるジュンとチョウサクの白装束達が現れた。

 そしてそれを追って、二体の丸い邪夢が触手を伸ばし、這うようにこの部屋に侵入する姿が……


「もうひと仕事残ってるなぁ」

 レンが大剣を肩に担ぎ上げながら苦笑した。

 頷いてモーリスはジンを振り返る。

 本棚の上で立ち上がる青い帽子は、大弓を静かに構えていた。すでにマーキングとジュン達の援護を開始している。

 モーリスは安堵して向き直る。両手に握るリングブレードが輝き出し、その大きさをふた回り大きく変える。輝きは失われないまま、輝くリングとして両手にあった。

 モーリスは一つ大きく深呼吸をしてレンに言う。

「私が邪夢の動きを止めてみるわ。大きい方は多分長い時間止めてられないかな。ちょっと厳しいわね。レンは今の内に夢珠を使って」

「え、あの二人が持ってるやつかよ」

「他にないでしょ。ホラ、急いだ急いだっ」

 活発に声を投げてモーリスは駆け出した。邪夢に向かって瞬速に消える。

 レンがうな垂れつつ、ラブラブ組を振り向くといつの間にか背後に立っていたエンジュとレオン。

「うわっビックリした」

 驚くレンにエンジュはしずしずと持っていた夢珠を差し出す。

「ゴメンなさい、これ、あなた達に返すわ」

「いいのかよ?」

 レンが尋ねると、エンジュの隣に立っていたレオンが口を開く。

「このエンジュの声が出なくなったから欲しかったんだが、どうやら君たちのおかげで治ったようだ。だから君たちに返す。すまない。そしてありがとう、どれだけ感謝してもしきれない」

「よくわかんねーけど、遠慮なく貰うぜ。礼ならジンに言えよ、俺は詳しいことわかんねーし」

 レンが夢珠を受け取りながら言う。レオンは本棚を見る。

「ジン、あの弓の戦士か。ぜひとも話したい!」

「今は邪夢を片付けるのが先、この夢珠、ちゃんと【コトダマ】の力使えるようになるのかなぁ」

 レンが夢珠を見つめているとレオンが言った。

「君は【コトダマ】をまだ持ってないんだな。大丈夫、夢の内容よりも、その人間の素質や才能を元にして得られる力だ。良ければ手伝わせてくれ」

「あ、ああそりゃ助かる。頼むよ。あんた雰囲気変わったな」

「そうかな?自分ではよく解らないんだが、前に【マリオネット】の夢珠を使って以来、二重人格になってしまったようなんだ」

「レオンはこっちが本当のレオンよ。とても優しいの」

「エンジュ、口を挟むな」

「あら、先に挟んだのはレオンじゃない」

「ちょっとちょっと、ケンカはあとにしてよ。みんな待ってるんだ」

 レンが慌てて止めた。

「よし、じゃあここに寝て、夢珠を胸の前に持って、直接身体に触れさせるんだ」

 レオンが促した。レンが言われた通りに寝そべる。服の前を少しはだけて胸の上辺りに夢珠を当てがう。

 レオンが静かに口上を紡ぐ。


「夢珠に願う、この者に言霊の力を、この者に言葉の秘めたる力を解くる鍵をその身に与えよ」


 横たわるレンの手を上からレオンの手が押さえる。夢珠が光を放ち、丸い形を崩れさせ、液体の光をレンの身体に振り撒く。光は浸透しながらレンの体表を駆け抜け、全身を七色に輝かせる。

 その光が波打ち、波紋を繰り返してレンの身体に満ち渡ると、静かに光が消えていく。光の波が落ち着いた時、レンは新たな力を手に入れていた。


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