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【凶戦士・11】

 赤い帽子を揺らして灰髪の戦士と剣を打ち合うレン。二合、三合と打ち合う毎に、レンは大剣の重量を上げていく。最初は押され気味だった打ち合いは、次第にレンに優勢を示し始める。

 一刀を持って戦うお互いはダメージの有無と大小もあるが、その敏捷度に歴然たる違いがあった。

 身を捻って躱すレオンに対して、疾風の力を得たレンは、まさに体ごと消えるのだ。そしてまた現れた時には全体重に大剣の重量を加味して攻撃して来る。

 その離れた距離がそのまま加重の威力と合わさり、数回打ち合う内に早くも受け切れない重さにまで威力を増していった。加速するための体術と加算される大剣の重量コントロール、僅かの間にレンは一対一の戦闘ならば無敵の強さを手に入れていった。

 もちろんそれは大剣を重くしたり軽くしたりという一秒未満の繊細な切り替え能力と、レンの戦闘センスが要因としてあるのだが、レオンにとっては知らない事だらけだ。目に見える事実を受け止めるならば、今までにない強敵として、この赤い帽子の小人の存在を脳裏に刻みつつある。


 だが、戦闘に優勢を迎えても、夢珠を持ち去られては勝ったとは言えない。肝心の夢珠は光が弱まり、完成を間近に控え、さらにその目の前で幽体のように透ける両手を広げて待っているのは朱毛の半身・エンジュの姿だ。

 ジンとモーリスは、離れた本棚に居るし、赤銅鎧はゆっくりとではあるが歩を進め、灰髪とレンの戦いに加勢する動きを見せている。

 たまらずレンが叫んだ。

「おい!ジン!モーリスも何してんだ!?」


 それを聞いてモーリスがジンを見て言った。

「ジン、急ぎましょう」

「きっと束縛や拘束じゃない、コレが正解だと思うんだ」

「わかったわ。使った事がない文字だし、弓矢もやった事ないけど、試してみましょ、ぶっつけ本番だけどね」

 ジンは矢をつがえた。

 片膝をついてやや斜めに構えられた大弓は弦を青く輝かせ、そこに二本の青く光る矢を乗せる。

 ジンの隣に立って、モーリスが力を与える。矢を引き絞る右手にそっと触れる。

 ジンの右手を伝い、光の矢に注がれるチカラは、黄色い渦を巻いて螺旋を取り巻く矢じりへと姿を変えた。


「威力は要らない、マーキングアローより細く、速く、正解に、同時にふたりを射る……」


 ジンは静かに集中した。

 一呼吸して息を止め、右手を放つ。


 細く光る矢は空中に線を引きながら飛翔した。

 瞬速の矢は黄色く輝く粒を撒き散らし、流星のほうきを形どる。


 ジンに背を向けていたエンジュは自分の背中に矢が当たった事を針の痛みにすら感じなかった。細く脆い矢は命中すると同時に砕け散り、エンジュの身体を青と黄色の光で包み込んだ。

 光の粒がエンジュの目の前で文字となって視界に割り込み、エンジュは反射的にそれを読んだ。無言ながらにそこに感じた想いは、たった一つの思い出を記憶から連想させ、身体の奥底まで光が届くのを感じた。

 内に秘めた想いが増幅される。

 この【自由】を決してそれは阻害しない。




 灰髪の胸元に閃光が走り、青と黄色の光の粒が大きく舞う。

 それはジンの放ったもう一本の矢だ。

 レンとの戦いの間隙、一撃も受けるわけにいかない状況で、赤い帽子の大剣に集中していた事が、容易(たやす)くその矢を命中させてしまった。

 突然目の前が輝きで満たされ、何かの文字が視界に飛び込んで来る。


「何だ!?……これは?」


 痛みは無い。

 胸にチクリと針かトゲでも触れたかというほど、気にもならない痛みはすぐに忘れてしまう。

 それよりも気になり、目を背けられないのは目の前の文字だ。



【誓約】



 ……

 ……

 ……



「俺がエンジュを(まも)るよ」


「私はずっとレオンのそばに居るわ」



【二人でいつまでも一緒に居よう】



 ……

 ……

 ……




「君たちは交わしたはずだ。二人だけの約束を、永遠の誓いをきっと。それを増幅する矢だ」

 ジンは確証を込めて言った。


 契りを交わした約束は、レオンとエンジュの中で増幅され、輝く光の渦となって身体を満たした。


 柔らかく、月夜の淡いオーロラの揺らめきは、体内から湧き出るほどに身体中を輝かせ、


 エンジュの身体を虚無の世界から解き放つ。それは透ける事なく伸ばされた両手の中に、夢珠を(いだ)かせる。

 虚無の空間から両脚が、つま先まで実体となって現れる。


「きゃあ!」


 突然何かに引き寄せられて、エンジュは悲鳴を上げた。

 浮力を失ったわけではなく、何か見えない力で引っ張り込まれた、空中に居たはずの身体は、ベッドの下に居たもう一人の存在、灰髪のレオンの腕に落ち、力強く抱き締められていた。





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