【夢珠・3】
疾駆する二つの影。
赤と青の戦士は異形の動きを待たない。
今、次の瞬間にも、また一つの異形が現れるかもしれないからだ。
常に先行して動く。
即、排除は夢防人の第一原則だ。
レンは大剣を両手に、駆ける。
「おおぅりゃあぁああ!」
咆哮と共に下段から切り上げるように振り抜く。
邪夢は虚を付かれ、胴体を下から打ち上げられる。僅かに刃が食い込み、触手を巻いた胴体から紫色の体液を吹き出しながら、床から引き剥がされる。
体液は床に落ちる事なく蒸発し、空中に浮かされた胴体は風船が大気に泳ぐように滞空する。
レンが大剣を振り上げた反動と共に飛翔する。
空中で邪夢の胴体を三度蹴り付け、自らの身体を上へ、上へと持ち上げる。異形を踏み台にして空高く舞い上がり、今度は振り上げたままの大剣を全身の力を込めて振り下ろす。
砕けよと言わんばかりに。
金属と硬い何かがぶつかり合う音が弾けて、邪夢の【眼】がひび割れる。
異形の体躯は床に強かに打ち付けられ、さらにゴム毬のように弾んだ。
後を追うように床に着地するレン。赤帽子は軽やかに弾み、左回転する体は大剣をさらに加速させた。二回ほど空回りするも、未だに異形は空中にあり、加速するレンと大剣は大きな風車となって床を滑空した。
異形の体躯は再び床を踏みしめる事なく、三枚におろされ、体液を撒き散らしながら一瞬の闇色閃光を放ち、霧散した。
レンは回転を止め、大剣を肩に担ぐ。
まだ、終わっていない。
後ろを振り向く。
青い帽子の弓矢が、空中に浮かんだ邪夢をウニのように針だらけにしながら、奇声を上げさせている。
矢継ぎ早に繰り出される光の矢は、異形の体躯の下部分を高速で撃ち続ける。
弓矢の力を下腹に受け、空中で縦回転を続けながら針の山と化していく邪夢。
苦しみを訴えながら黒く光る【眼】を高速の矢が撃ち抜いた時、その体躯は闇色に光って消えた。
レンは大剣を肩に担いだまま、青帽子に近づく。
「結構ヒドイよな、その技」
「レンみたいに8連コンボ出来ないもん」
「コンボ数なら30以上はイってるだろうが」
「非力な僕は工夫するしかないのです」
笑顔を見せる二人の小人の背後で夢珠の輝きが薄れつつあった。
それは完成を意味する。
「あ、落ちて来るぞ」
レンは夢珠に向かって駆けた。
軽い身のこなしでベッドからはみ出したシーツの端を掴み、ヒトの眠る高さまで飛び上がる。
毛布の起伏を山から山へと飛び移り、ヒトの肩に飛び乗る。丁度、夢珠の真下へ。
「待ってよー、もぉ、いっつも先に行っちゃうんだから」
小さく愚痴をこぼしながらジンが毛布の上を駆けて来る。
浮力を失い、落下する夢珠。
このまま、もしもヒトの身体に触れたならば、夢珠はそのままヒトの身体に溶け込み、吸い込まれるように還る。だが、今回は赤い帽子の小人の両手の中に抱きしめられた。
大きなスイカを抱えるように、レンが夢珠をしっかりと掴む。
それは表面が虹色に光る、いつになく上質な夢の塊だった。
/Special thanks/緋川和臣
レン/キャラデザ001