【凶戦士・5】
ジンは大弓を構え直す。マーキング・アローとは違い、威力を重視して放つ攻撃的な弓矢だ。マーキング・アローは命中のみを重視し、当たってから対象を光らせるのが目的だが、今、構える弓矢はより太く、長い。
いつか見た都会の弓戦士アルテアとジンの弓矢の違い、その威力の差に探求した答えはこれだ。
射る前に、矢をつがえる時に何を意識しているのか。
今までのジンは速さと正確性を意識して来た。それはレンの援護をする上で必要な技術だった。
だが、正確な連射を繰り返す内に、矢の威力は落ちてしまっていたのだ。
この青い輝きは貫けと念じながら、ジンの渾身を込めて引き絞られている。連射性能は落ちるが溜めて打つ、威力は数倍だ。
双剣の猛攻を大剣で受け続けるレン。その赤帽子が揺れる。対する戦士の武器が一本の剣ならばレンの優勢は揺るぎないものだったろう。
レンの持つ、重さを自由に変えられる剣は、受ける者からすれば厄介な事この上ない。
速度はレイピアに匹敵する素早さと、受けるには厳しい重厚なハンマーを同時に相手し、そのどちらであるかの判断はレンの思いのままなのだ。
もしも一刀でレンと戦ったならば、先に武器が耐えきれず、破壊されるだろう。
だが凶戦士は二刀を構えた。
連続で攻撃をし続ける事で、レンの攻撃を押さえ込んでいる。
そしてジンの弓矢に対する防御として、全身鎧がある。
このままレンが攻撃に転じる事が出来ないのであれば、ジンの弓で鎧を貫くしかない。だが来ると分かっている攻撃に当たってくれる程、凶戦士も愚かではないのだ、ジンは矢をつがえたまま、放たれる時を待つしかなかった。
暗闇を駆ける少女・モーリスは本棚からベッドの下を大きく回り込み、凶戦士の背後、さらに死角を取る。
両手には何も持たない。空手のまま戦場へと赴いた。視線の先に護衛組のジュンとチョウサクが見える。手近にあった紙ゴミと糸くずを丸めて投げる。チョウサクが気付いて声を上げたように見えた。
無音の叫びは戦いの中の戦士達には気取られる事はなく、足音を消してややゆっくりと駆けるジュンとチョウサクはモーリスと合流を果たす。
ベッドの足の陰に隠れる三人。
モーリスがジュンとチョウサクの首に同時に触れる。
「話して。もう大丈夫よ」
それは力を込めた言葉だ。
ジュンとチョウサクの二人が顔を見合わせる。何をされたのか理解していないまま、
「大丈夫か?って、アレ!? 声が!」
と、ジュン。
「あ、あああ、本当だ!どうして?」
と、チョウサク。
「静かに。奴に気付かれるわ」
モーリスがすぐに注意する。二人は喜びと共に冷静でいなくてはならないと悟ってすぐに警戒する。
「すまない、俺の不注意でこんな事に……」
チョウサクが肩を落とした。言葉を続ける。
「……奴ら突然現れたんだ。何も無い所からいきなり居て、おそらくは禁制の【透明になる術】か何かを使っていたんだと思う。殴られて、気付いたら声が出なくて……」
チョウサクが少し口早に話す。
小人達にとって、夢珠は使い方によってはあらゆる事が万能に叶うと言っても過言ではない。
だがそこには小人同士のモラルがあり、制約がある。例えば、お互いに存在が見えなくなる【透明化】や人間にも直接被害をもたらす【毒】や【爆発】、それらは禁制として夢珠の利用はもちろん、実際に作る事も禁止されている。
だが、それらは実際に管理されているのは組織に属するものだけである。近年拡大する独自の集団【チーム】と呼ばれる者たちの中には、モラルが欠落した者が存在してしまっていた。自由という意識は、お互いの守るべき秩序すらも崩壊させたのだ。
チームに属し、自由を尊ぶ一部の小人達は、自由に夢珠を搾取し、使用し、作り上げ、自らを過剰に強くし、さらに闇の副作用に溺れていった。
管理されない自由は、自分を守れない危うさと隣り合わせだと気付いても、今だに増加の一途を辿っている。




