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【凶戦士・3】

 激昂を持って空気をなぎ払う剣、黄金の刀身は黒い光をまとい、三日月を描きながら赤帽子に襲いかかる。

 レンは向けられた殺気をいなしながら軽やかにバク転を披露し、一振り、ふた振りと灰髪の剣士に油を注ぎ足す。

 少しオーバーアクションではあるが、神経を逆なでするのが目的で、息を呑む攻防を探求している訳ではない。

 レンは距離を取った後、身体を正面に、足を肩幅に、掌をパンと小気味よく音をさせて合掌する。その手をゆっくりと広げる、右を突き出し、左を後ろに。鳥の片翼のように広げながら映画のアクションスターのようなキメ顔。

「どうした、剣が泣いてるぜ」

 嘲笑を混ぜるレン。

 武器が無いから実は防戦一方だが、余裕がある笑みでゴマかす。

 灰髪が剣を構え直しながら言う。それはチカラのある言葉を含む。

「このチョロチョロと……【(ばく)】」

 長剣が黒く光る。剣の刃から黒い輝きが生命を宿したように動き始めた。闇色の光は炎のゆらぎのごとく見る間に大きくなり、剣先に集まりながら形を成していく。それは【縛】という文字。

 灰髪の剣が【縛】の字体に触れると、文字は黒炎を刃に絡ませる。黒蛇がうねり螺旋を描いて渦巻くと、黄金の長剣は振るわれた。

 距離を取っていたはずのレンに向かって螺旋が伸びる。

 シュルシュルと蛇の声にも似た風切り音が空間を突いて走り、躱そうと横飛びしたレンの右腕を素早く捕らえた。

 革のベルトにでも巻かれたように、硬い質感がレンの右腕をからめ取り締め付ける。

 レンが小さく舌打つ。

 歓喜の声を上げるのは灰髪。

「捕まえたぞ!!」

 長剣を引き付ける。そこから伸びた触手がレンの体を揺さぶる。着地したレンが対抗心を露わに右腕を引き、その場に踏み止まって堪えると張り詰めた触手は軋んだ音を空気に返した。

 赤銅の鎧戦士は動かない。傍に居るジュンやチョウサクにも手を出さず、凶剣を携えて、ジっとレンと灰髪の戦いを眺めているようだ。

 灰髪はレンを引き寄せようと剣に力を込める。

「さあ、どこから切り刻んでやろうか!?そうだ、そっちのお仲間と一緒がいいか?」

 灰髪の声に反応して、鎧戦士が動く。それまで不気味に起立していた身体を反転させ、ジュンとチョウサクに向き直る。右手の凶剣をゆっくりと振り上げるとジュンの背中を目掛けて……

「そうは行くかよ!」

 レンが叫んだ。

 その声に呼応すると同時に空間を滑る青い光。

 細く、鋭く、空気を切り裂いて光の軌跡は描かれる。


 レンを縛る触手に一撃を、

 灰髪の足に一撃を、

 鎧戦士の腕に一撃を、


 青い光を放ち、輝矢(せんこう)は深く突き刺さる。


「何だと!?」

 灰髪が自分の右足に見舞われた一撃を目視して方向を割り出す。視線を走らせる先にあるのは本棚とその中腹から大弓を構える青いトンガリ帽子の姿。

 忌々しくも赤い帽子と似た服装に、イナカモノの増殖と認識する他ない。

「仲間がまだ居たのか!」

 灰髪の苦い声を待たず、青い閃光はさらに加速する。

 空間を走り、触手に突き刺さる一撃と同じ箇所へ寸分違わずに、二本、三本……加算される矢は触手を貫き、さらに烈断させた。

 自由を取り戻すレン、灰髪がバランスを崩して膝をつく。その刹那に灰髪の肩、腕の鎧部分に刺さる閃光。


 そして鎧戦士の右腕に突き刺さる一撃にも追加の閃光は走る。

 鎧戦士はそれを空中で切り払って見せた。空中で砕かれる光矢。欠片たちが降り注ぎ、鎧戦士にまとわりつく。

 鎧戦士は右腕に刺さった矢を引き抜こうと矢を掴む、と、これもまた途中でポキリと折れ、粉々に破片が舞う。

 舞い散る青い光、それらは鎧戦士を暗い部屋の中で一番目立つ存在へと変えて見せた。


「マーキング完了」


 ジンの呟きは灰髪達には聞こえない。


 そしてその矢の雨が侵入者達の目を奪う中、闇に紛れて走る影。この部屋の誰よりも詳しくここを知る少女は、目を瞑ってても歩けると豪語する以上に、暗闇を自在に疾走して行った。


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