【凶戦士・2】
屈託無い笑顔を振りまきながら駆けてくる赤い帽子の小人を、灰髪の男は声を張り上げて呼び止めた。
「おい、お前!そこで止まれ!」
警戒心が強い表れだろう、不用意に近付けないように静止を告げる。
だがそれを無視してレンは走り続け、ジュンの目の前まで走り寄る。
「ジュンさん!待ってましたよ!そちらの方はお友達ですか!?」
ニッコリと笑うレンに、驚いて固まるジュン。そして即座に長剣を向ける灰髪の男。
突き付けられていた剣が、ジュンの背中からレンの首筋に変わったが、変わらぬ気迫をまとったままで灰髪の視線がレンに向けられる。
「止まれって言ったのが分からないのか?」
レンが後ろを振り返る。
「お前だよ!お前しかいないだろ!」
レンが眉根を寄せて、少し困ったカオをする。
「えーと、お友達さんですよね?」
ジュンが頭に手を上げたまま、首を左右に振る。
「えーと……恐いお友達さんですか?」
「お前ナメてんな?それとも本気でバカなのか?よく状況見ろよオイ」
灰髪が長剣の先でレンを小突く。
レンは引きつり笑いを浮かべて言う。
「恐いカンジのお友達ですね」
灰髪がそれにノッて来る。
「おおー、そうだ。恐いお友達だ。かなり恐いから、俺の剣のサビになりたくなかったら言う事を聞いとけ」
「ええっ、全然友達じゃないじゃないですかっ!昨日街に来たばかりなのに何で斬られなきゃいけないのさっ」
慣れ親しんだ者なら即座に見抜ける程の無理のあるセリフ回しだが、初対面の相手なので当然のようにぶつけていく。
「そうか、お前イナカモンか。道理でイモ臭いと思ったぜ、って嗅ぐな!臭いを嗅ぐな!」
「どんなニオイなんですか?」
「真面目かお前は!もういいから持ってる武器を渡せ」
「……え?」
「背中の剣をよこせ」
「……コレをですか?」
「そうだよ!」
「大丈夫ですか?」
「何がだ!早くしろ!ちゃんと小さくしてからこっちに投げろ」
ちょっと困った表情を向けるレン。
「小さく出来ないんですけど」
「はぁ!?マジでバカだな!そんなもん担いで歩いてんのか?イナカモン丸出しか!大きい武器は小さくして持ち運ぶのは基本だろうが!」
「へー、そうなんだー」
「納得してないで早く渡せ!」
「あ、はい。どうぞ」
ゴトトッ
「ぐわっ!!」
「重いから気をつけてネ」
灰髪の正面に投げつけるように渡されたレンの大剣は、レンの指先から離れる直前に最大限の重さに変化する。
人間サイズならば冷蔵庫を突然投げつけられた恐怖に値する。
灰髪はそうとも知らずに左腕一本で受け取ろうとして、支え切れずにバランスを崩し仰け反り帰る。
直前までレンはそこまで重量を感じさせない仕草で扱っていた上に、武器を重くできるようにしている小人など皆無に近い。灰髪は完全に策にハマっていた。
レンが笑う。
「大丈夫かって聞いたろ!」
「こんのヤロウ!」
灰髪が叫ぶ。そのよろけた背中を赤銅鎧の戦士が剣を持つ手で支える。左腕にはチョウサクを掴んでいるので、必然的に両腕は塞がる。
それを見た瞬間、レンは鎧の戦士に向かって飛び蹴りを見舞う。
「あらよっ……と!!」
素早いレンの跳躍は戦士の左肩を捕らえる寸前で食い止められる。戦士の左腕がレンの足を弾いた瞬間、チョウサクは床に転がって頭を痛打していた。
「……っ!?」
チョウサクが言葉にならない声を発して唇を動かした。そして目を開け、驚いた両目を見開く。ジュンを見つけ、次に部屋を見回す。
その一瞬でジュンは活力を取り戻す。
今まで客人だからと頼るつもりのなかった自分に対して、思わず反省をしてしまう余裕さえ産まれた。
ジュンは頭に上げていた両手を使い、チョウサクの身体を抱き起こした。
それは自分の身体を盾にするように仲間を抱きしめる姿だった。
「イナカモンは俺が斬る!コマ切れにして犬に食わしてやる!」
灰髪が顔を紅潮させて長剣を構えた。床に転がるレンの大剣を踏みつけ、金色の長剣の切っ先で赤い帽子を苦々しく差し示す。
「やれるもんならやってみろい!」
レンが目をキラキラさせて手招きして見せた。




