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月夜の☆じゃむパニック!~YUMESAKIMORI外伝~  作者: 夢☆来渡
第五夜 【小さなモミジ】
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【小さなモミジ・5】

 

 夕暮れの空に似たダウンライトのオレンジは眼を凝らすまでもなく優しい色で長いフローリングの廊下と二つの影を照らす。

 寝室を出たジュンが見たのは廊下の半ばまで先を行くハルオの後姿だった。決死の足取りで足を回転させ、子供部屋へと急ぐ。

 ジュンは自分も後を追っている事を告げ無かった。それは余計な叫びが廊下にこだまするのを避けた為だ。ニンゲンが起きている事を想定すると不用意に叫ぶ訳にもいかない。


 先を行くハルオは子供部屋にたどり着き、その開け放したままのドアを潜る。

 薄暗い部屋の中、ベッドにはニンゲンの子供が寝顔を見せている。

 どうやらこの子供は非常事態の原因ではないらしい。

 そして次に、ベッドの側に横たわるチョウサクの姿を発見する。

 うつ伏せになり無造作に肢体を伸ばすその身体に、急いで駆け寄るハルオ。

 思わず駆け寄ってしまったと言っていい。

 本来ならば現状確認をしてリーダーに報告するのが最優先であり、駆け寄る行為自体も安全を確認した上で許可を取るべきだった。

 だが、些細な事から心を乱していたハルオは、高まった仲間意識から冷静な判断を失っていたのだろう。チョウサクに駆け寄り、両ヒザを付いて右手に持っていた武器、鉄扇を傍らに置いた。空いた両腕でチョウサクの身体を揺り起こそうとした刹那、衝撃と共に視界が歪む。

 チョウサクの身体に倒れ込みながら、それが邪夢の攻撃などではなく、何か重い鈍器で頭部を殴られたのだと思い知る。

「……」

 声が出ない。

 不覚を取った。その想いも虚しさも悔しさも、頭部の痛みさえも言葉にならない。

「……!?」

 いや、呻き声さえも目の前で、いや喉から掻き消されたように音にすらならない。

 そこまでのダメージを受けたのか?と、ハルオは一瞬絶望した。いや、これは異常だ。身体がそう言っている。

 ハルオの声は地底に住む悪魔にでも奪われたように一音にもならず、口をパクパクと動かしながら息だけが漏れる、不可解な現象を起こしていた。


「ちょっと【黙】ってろよ。そっちのお仲間さんは【眠】ってもらってるだけだ。安心しな」


 誰か男の声が聞こえた。ハルオの視界に足が映る。

 同じ小人の足が四つ。膝まであるブーツに小さな鉄板を幾つも張り巡らせ、防御を上げている。それは戦士としての装備に違いない。

 ハルオは痛む頭で理解した。

 同族の小人の戦士、部外者が侵入し、チョウサクはそれを知らせたのだと。

 だが気付いた頃には遅い。

 指先の感覚が僅かにあるが、今動くのは得策ではないと判断する。

 何より、リーダーに知らせなければならない。寝室の赤帽子達にも、緊急事態だ。

 だが、肝心の声が出ない。


(そうか、だからチョウサクは笛を……)


 チョウサクも同じように声が出なくなったのだ、とハルオは直感した。すぐにこの事態を知らせるならば笛を使うより叫んだ方が早い。だが先に声を奪われてしまった。


(確かに……笛ならば吹く事は出来る)


 そして、眠らされた。


 ハルオは次第に身体の感覚と頭部の激痛を取り戻しながら、未だに動けないフリを続け、思考する。

 おそらくこの侵入者は夢珠を横取りするつもりなのだ、と。

 どこの組織なのか、野良チームなのかは不明だが、こういう乱暴な輩は存在する。

 それがレアな夢珠を産む人間の家ならば、尚更その危険も増すだろう。

 チョウサクを眠らせた後ですぐ近く、ベッドの陰か上に隠れて、呼び寄せた仲間である自分を待ち伏せていたのだ。ハルオは静かに憤怒した。

 頭部の痛みが酷く、首の根元まで重く感じる。ベッドの上から飛び降り様に一撃を浴びたのだと判断する。

 そこまで逡巡の判断と思考を取り戻し、次の一手を思考するハルオの耳に、聞きなれた仲間の声が届いた。


「誰だお前達は!!二人とも何処のチームか名乗れ!!チョウサク!ハルオ!意識はあるか!?」


 子供部屋の入口に立って叫んだのはジュンだ。

 その声は冷静に裏打ちされた叫びだ。部屋の状況を寝室まで聞こえるように叫んでいる。

「あらら、もう一人居たよ。もう少し隠れておくべきだったかな」

 侵入者の一人が言った。灰色の髪を怒髪天のように逆立たせ、黒い鎧を身に纏う。背は高く筋肉も鍛えられており、その太い腕に似つかわしくない腰の短剣が金色に輝いている。

 その隣には同じくらい長身の赤銅色の鎧戦士が無言で立つ。こちらは灰髪の男よりもやや細身だが、顔を全て兜と仮面で覆い、表情は見て取れない。その無言と、持つ剣のやたらとギザギザした刃の凶々しさが不気味なオーラを放っていた。


 ハルオは何故ここにジュンが来たのか分からなかったが、自分の意識があって動ける事を伝えるため、寝ながら右手を僅かに上げた。

 それを確認してジュンが叫ぶ。


「ちくしょう10日ぶりの仕事だってのに問題起こしやがって!今行くからジッとしていろ!」


 それを聞いてハルオが微かに緊張する。


(オーケー、10秒後に反撃する)


 ジュンが叫んだのは裏の意味を含めた指示だ。

 10日というのは10秒という時間を示し、ジッとしていろとは逆指示で反撃となる。

 10秒数えたら同時に二人で動くという意味だった。




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