【小さなモミジ・3】
寝室に入り、護衛組の三人と合流したジン、レン、モーリス。先発として部屋の邪夢討伐を行っていた三人から、隠れていた一匹を討伐したとの報告を受ける。
護衛組はジュンとハルオの二人をベッドの下に残し、チョウサク一人を子供部屋に向かわせた。
「よろしく頼む」
「何かあったら知らせる」
護衛組のジュンが言うと、子供部屋を任されたチョウサクが槍を手に走って寝室を後にした。
その背中を見送って、ジンとレン、そしてモーリスは部屋にある本棚に身を隠す事にする。下に隠れる方が見つかり難いのだが、眠るまでの監視をするためにも上からベッドが見える場所を確保したいのである。
ジンが背中に背負っていた弓を手に取る。組織の武器屋で新しく能力を付加した新大弓。かつて都会から来た弓の女戦士アルテアから知った要素も取り入れた。
弓には水色に光る玉が付いている。接着されている訳ではなく、まとわりつくように弓の周りを浮遊している。この光の玉は弓の本体の形状に合わせて大きさや姿を変える。弓の場合は光の弦となり、本体が杖のように伸びると球体になって先端を飾る。そして、杖のまま光の玉から糸状に長く伸ばすと、
「釣り竿?魚でも釣るの?」
モーリスがそれを見て真顔で聞いた。
ジンはニコリと笑ってモーリスの手を掴む。
「こう使うんだ」
言うとジンは片腕で釣り竿を振り、本棚の中間を目掛けて針先を打ち込む。上手く掛かったのを確認すると、光の糸を急速で縮めた。
それは竿を握るジンと、手を繋いだモーリスの身体を空中に運ぶには充分な力と速度である。まさに一瞬で飛行した二人は本棚の中腹に着地した。
「ムチと弓の融合を目指したらこうなったんだ」
「びっ、びっくりした!」
驚くモーリスをなだめて、ジンが微笑む。
「杖にもなるしね。あとはこの光玉が剣みたいに尖ると槍になるんじゃないかと思ったんだけど、そこまでは容量オーバーだったみたい。もっと強い夢珠が要るね」
レンが下から声を投げ掛ける。
「おーい、俺も俺も〜!」
目をキラキラさせながら手を振っている。
ジンは竿を振るって、レンに糸を飛ばす。
赤帽子はその光の糸を左手で掴む。
「オッケー!」
「いくよー」
ジンが竿を立てると勢い良くレンが釣れた。
空中を飛んでモーリスの隣りに軽やかに着地する。
「うほーっ!!たっのっしっい!」
レンが興奮している。
背中に大剣を背負いながらも軽やかな身のこなしを見せるレン。彼にモーリスが問う。
「思ってたんだけど、レン君」
「レンでいいぜ」
「レンはその邪魔そうな剣は小さく出来ないの?」
「ん、無理だ」
「……即答ね」
「でも重さを自由に変えられるから、今は重くないぜ」
「いやいやいや、もしサイズを変えて小さく出来たら軽くなるでしょ。それでいいじゃない」
「違う違う違う、サイズ変更の能力だと、最初の重さが最大重量だろ。それじゃあ攻撃力ダウンだ」
「え?」
「持ち運びだけのために軽くするならサイズ変更の能力で正解だ。俺だってわかってる」
「何?重くしたいって事?」
「そう、そっちがメイン。このサイズのまま攻撃力を増すために、邪夢を斬る瞬間にドーンと重くしたいわけだ」
呆れた顔をするモーリスが思い出したように言う。
「でも武器屋でレンも新しく武器に何かしてたじゃない。何か変わったの?見た目全然変わらないけど、店でスゲースゲー言ってたじゃない」
「ああ、アレ。聞いて驚け、なんと重量コントロールの変化時間が0.2秒も速くなったんだぜ!」
……
……
……
「ゴメン、よく分からないんだけど、それだけ?」
「馬鹿な!こんなスゴイ事が分からないなんて! 0.2秒って言ったら12フレームだぜ!?」
「ゴメン、その例えピンとこないから」
「技を出した後の硬直や空振りしたあとの硬直が0.2秒短縮されるんだ、それだけ俺は早く動けるようになるし、着地硬直だっていくらか軽減される時があるし」
「着地こう……何?」
「マジか!?そこから説明するか」
「いや、多分聞いても分からない気がするわ」
「例えば邪夢を上から叩っ斬るとするだろ?これが当たればいいけど避けられた時にだなぁ……」
「え、何この子めんどくさい」
「めんどくさいって言うなぁ〜!」
「ジン君、あなたの友達アタマがいいのか何なのか分からないわ」
「ジンでいいよ。レンはすっごく頭いいよ。ただ自分の好きな事にだけ120%頭を使うタイプ」
「ああ〜、いるいるそういう子」
「それ褒めてんのか?」
睨むレン。一応、貶されてはいない。
そんな三人のやり取りを護衛組のハルオが羨ましそうに見ながら呟いた。
「仲良いな。若いっていいなぁ」
隣でジュンが吹き出した。
「ははっ、俺たちだってまだ若いし仲も良いさ。負けてないだろう」
「いや、あの女の子とは今日初めて会ったらしいけどもう打ち解けてるからさ」
「ああ、そう言えばそうかな。でも俺たちだって、出会った時から意気投合していたじゃないか……どうした?ハルオにしてはしんみりして、悩み事か?」
「ああ、まだジュンにもチョウサクにも言ってなかったんだけど、ずっと言えなかった事があるんだ」
「何だ?言ってみろ」
「俺の名前、実はミズノ・ハルオじゃないんだ」
「!?」
「最初に自己紹介した時からそのまま今日まで来ちゃったけど、ギャグのつもりで言ったのにお前達に受け入れられてさ、何だか本当の事を言えなくなっちゃったんだ。ごめんよ。チョウサクにもあとで謝るから……」
「泣くなよ……それで本当の名前は?」
「ほ、本当は……」
ハルオが意を決して何かを言おうとした時、階段を踏み上がるニンゲンの足音が響いて来た。




