【夢珠・2】
眠りに落ちるヒト。
青年は自らが護られている事も知らずに今宵も睡眠を貪る。その頭上に輝く光は珠の形状を成して、尚も肥大する。その大きさは豆粒のようであり、ヒトからすればさほどの重さすら感じないであろうし、何かの拍子に物陰に転がって紛失するやもしれない。
コビト達にとっては片手でもやっと持てるかどうか、野球、いやソフトボールで使う球のサイズに同等するといったところか。
柔らかく、儚く、幾多ものホタルの輝きを集めるように、光は線から粒になって収束していく。
「まだ完成まで時間かかるか……もな」
ゴトトッ
微かな気配に赤帽子の小人が語尾を鈍らせる。
彼は経験から次に起こりうる現象を察知していた。
「ジン、来るぞ」
赤小人が青小人に警告した。
ジンと呼ばれた青帽子は大きな弓をベッドの下に蠢く闇に向かって差し構える。
その方向は赤小人の背後を護り、眠るヒトの足側を護るに値する。
「レン、そっちは任せたよ」
青帽子の小人が言った。
赤小人のレンは呼ばれ慣れた名前とセリフに返答なく、青小人にその背中を預けた。
ヒトの頭側に向かって立つ。自分の身の丈ほどもある大剣を両手で構え、闇に向かって気勢を吐く。
夜闇の奥に潜む、夢珠を狙う【ヤツら】を彼はよく知っている。
「そんなに夢珠が食いたいんなら来いよ【邪夢】ども!叩っ斬ってやるぜ!」
ーーそれはヒトから産まれる。
悪意に満ちた夢、ヨコシマな夢の力は収束し、結晶となり、卵から孵った闇が産み出した異形の存在。
『クわセロ……食ワセロ、
……ハハラヘッタ……クわセロ』
闇色の体躯はやや丸く、濡れた毛糸玉を思わせるシルエットが部屋のベッドの下、そしてゴミ箱の影からノソリと現れた。
体表を覆う長い糸のような触手が何本か突き出し、手足となって移動する。
毛糸玉の中央に黒く渦巻く塊が闇を結晶化させた宝石のように唯一、月の明りを反射させていた。それは眼であり、【ヤツら】=【邪夢】の口でもある。
そこから聞こえる不協和音の声が、命を感じさせる唯一の輝きだった。
ヒトは何故にこんなモノを飼うのか。青小人のジンは弓を向けながら未だに解けない疑問を頭に走らせる。
その手に持つ大弓に力を込めて弦を引くと、左手から右手にかけて一筋の青白い光が走り【光の矢】となってつがえられた。
赤小人のレンも、油断なく構える大剣に力を込める。両刃の剣から放たれた赤い光を、揺らめく炎のように刀身に帯びて纏わせる。
彼らはこのような夜を何度も過ごして来た。
今宵もまた……
「行くよ、レン」
「油断すんなよ、ジン」
……長い夜になりそうだ。