【言葉の魔術師・9】
「ちょっと、大丈夫~?しっかりしてよ、着いたわよほら!」
「ぐぅぅ、この世にこんな乗り物があっていいのか……」
「都会のゲロ臭さにこの揺れはもう嫌がらせレベルだろ、吐くなと言う方がおかしいぜ」
「これなら僕たちみたいに首にぶら下がる方がまだ全然いいよ。あ、まさか帰りも乗るのか!キッツイなあ!!」
「ふふ、恐ろしいな……ネコにバスケット……ぐふっ」
「レン君!気を確かに!」
「せめて窓は要るだろ、密閉するなんて信じられ……ガハッ」
「ジン君!目を開けて!」
「……」
「……」
「いいゃああぁ!!」
「何をやっとるんですか」
思わずツッコミを入れたのは護衛組のジュンだ。
漆原邸に到着した黒猫の『ネコバス』が二騎、背中に設置された藤籠から這い出したのは夢防人のレンとジン、そして普通に降りてくるモーリス。
暗闇と夜道に溶け込むため、あえての黒猫と濃い茶色のバスケットは東京北区では一般的な移動手段だ。
ただし、乗り心地は極めて不安定で、時折訪れる猫のジャンプ、ダッシュ、急斜面からの急ブレーキなどなど……
「……」
「……」
「ちょっと待ってあげて、二人ともグロッキーだから」
初心者には辛い仕様になっている。
この移動手段については、昼間用として、鳥のハトを使用した『ハトバス』なる物も存在するのだが、稀にバスケットが落下する危険があるため、近年では「ハトバスよりネコバスのが使えるっしょ?」という戯れた認識が拡散している。
程なくして立ち上がったレンとジンは歴戦を重ねた老兵のような表情を見せ、漆原邸の前に肩を並べて、家を見上げた。
宵の闇に浮かび上がる白の外壁、近代住宅の屋根はダークブラウン、日本瓦ではない平面化した屋根は高く、ジャンプして辿りつける距離ではない。
外壁も四角を綺麗に形取り、幾つか窓はあるがどれも開いている様子はない。
どちらかと言えば防犯のセキュリティも完備された、侵入し難い造りだ。レン達のような田舎なら、たまに開いている二階の窓から侵入したり、旧日本家屋なら隙間や通気口、ネズミが開けた穴など、利用出来そうな場所を使って侵入する。
「しかしながら屋根まで高いな。鳥のがよかったんじゃね?」
レンが言う。
残念ながら揺られまくったネコバスは既に中庭まで侵入しており、庭の片隅に丸くなって待機している。その背後に目線を走らせると、隅々まで手入れの行き届いた青い芝生と鉢植えに並ぶ花、細長いプランターに植えられたハーブが視界に映る。
それを大きく取り囲む外壁が、都会ながらも庭付きの一戸建てという上等な条件を満たしている事を匂わせる。
ジンが護衛組を振り向き、この家の入り方を尋ねる。
「いつもどうやってるんですか?」
一度使用した侵入経路や模範方法があるならそれを知りたい。毎日の事だから定番化していればそれに則る。
ハルオが建物の中でも一番小さい窓を指差して応える。
「あの窓から解錠魔法を使って入るとの事です。ただし、トイレらしいので、侵入してからもう一つ、ドアを開けるミッションが必要ですね」
レンが面倒くさそうに声を上げる。
「うわ、じゃあ全員が寝静まるのを待ってからになるって事?」
頷くジュンとチョウサク。
こればかりは仕方ないと言うが、それならば時間の調整が間違いではないのかと突っ込みたくなる。
眉根を寄せてレンとジンが見合う横で、スルスルと玄関の扉に近づくモーリス。
玄関の前にある小さな階段を軽快にジャンプし、ドアの前に立てかけられた空の傘立てを足掛かりにドアノブにタッチする。
「チョット開けて」
そう呟いてタッチだけをして、そしてまた高いドアノブからジャンプして地上に降り立つ。玄関の前で振り向きざま、当然な顔をレン達に向ける。
「開いたわよ。先に行くね」
そう言うとモーリスの目の前で玄関のドアノブが動き、小人が入る分だけの隙間を開いて止まった。自動扉のように人影はなく、ドアが自らモーリスを招き入れていた。
家の中に消えたモーリスを慌てて五人が追う。
全員を招き入れた後、ドアは静かに閉まり、カギが掛かる音がした。
レン・ジン・モーリス/キャラクターデザインラフ02/絵・緋川和臣/キャラクター原案・夢☆来渡/
三人を描いた落書きを緋川君が描いてくれたもの。レンの横に『王凛』と書いてあるのがわかりますかね?レンの本名は『ワン・レン』ということです。オリジナルは中国人から産まれたのがレンなんですね。




