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月夜の☆じゃむパニック!~YUMESAKIMORI外伝~  作者: 夢☆来渡
第四夜【言葉の魔術師】
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【言葉の魔術師・6】

 

 人間の中でも有名人や、芸能人の夢珠は質が良く、中玉や大玉が高確率で入手出来る。夢防人達がそれらを管理下に置き、完全に監視と調整、保護をしていた。そうしなければ小人達が奪い合いや乱獲など、同じ夢防人同士の醜い争いに発展しかねない。

 しかしそれでも、監視網を抜けて狩場に侵入する若者や、狩りを終えた後の夢珠の輸送中を襲って奪おうとする非道な者もゼロではない。

 夢珠の管理において、邪夢やニンゲン以外にも、備えるべき敵が居るなど同族ながらに悲しいモノだ。

 少しでも非道な行いを減少させるため、特定のニンゲンを希望して狩場に付ける申請の予約制度、また欲しい夢珠の能力を得るために、集められた管理所に夢珠の予約をする注文制度がある。

 基本的に、収穫した夢珠の大きさによっては提出しなければならない掟があり、倒した邪夢の数や様子なども報告の対象だ。

 だがそれらがごく平和に管理され、正確に報告されているのは田舎町ぐらいなもので、都会においては『現場の臨機応変』の名目の下に、管理は行き届いていなかった。


 都会での住宅事情は夢防人にとって、管理をしにくくなるばかりの発展と進化を遂げ、跳梁跋扈する邪夢たちの大きさや変容も、田舎町の比類ではなかった。

 しかし、それでも絶滅せずにやってこれたのは、田舎町からの夢珠の援助や、都会でその場で得られる高品質の夢珠のおかげであった。

 都会では昔からある組織的な集落による管理団体と、若者や一部の夢防人達が個人で集まってチームを作り、邪夢に対抗している、二分された様相を成していた。

 組織集落は田舎町と契約して援助を得ながら維持され、個人チームは自分達が獲得した夢珠を元手に交換したり、傭兵のように戦いの技術面で仕事を請け負う事で存続を維持していた。

 それも夢防人達が通貨の概念を持たない種族である事も、一つの要因と言えよう。


 東京都北区、夢珠管理団体第一支部、通称『アレックス』は昔からある管理団体であり、北区の中でも一番人気が高く、夢防人達が多数登録している。

 その管理受付のカウンターで一人の小人が肩を落として項垂れていた。

 半年前から予約していた狩場の出動が当日になって延期になったからだ。

「申し訳ありません。上層部の決定事項によりご容赦下さいませ」

 カウンターを挟んでオペレーターが頭を下げる。

 緑色の長い髪を掻き上げながら、その女性、夢防人・モーリスは大きな瞳をオペレーターに向けた。

「半年も待ったんだから、今更一日延期になったくらい構わないけど、理由を教えてもらえないって事は無いんじゃない?他の人は納得してるの?」

「はい、皆様延期については快く応じてお帰りになられました」

「う、何だか私だけごねてるみたいじゃないのさ」

「はぁ……何しろ急な決定でしたので、私共にも詳しい事情が伝わっておりませんので……またはっきりとした事情が分かりましたらお伝えさせて頂きます」

「くぅ~、これだからお役所仕事は!!」

「申し訳ありません」

 機械的に頭を下げるオペレーターに業を煮やしてモーリスはカウンターを後にした。

 黄色いロングスカートのように見えるローブと緑色の髪が映えて、歩く調子に合わせて揺れる。

 女の戦士は珍しいわけではないが、その装備は軽く、戦場に出るには少し心許ない。

 一瞥すると普段着のようにしか見えない程だ。


 戦場の予約を入れて、当日までに編成チームが組まれ、戦力の補填として組織から戦士が補充される。

 モーリスは誰とも組んでおらず、主に単身で活動しているため、あえて自分の戦場の役割を中間的な物にしていた。装備も出動前に用立てるため、普段から鎧めいた装備はしていない。

 武器にも得意、不得意はなく、状況に応じて変更出来るように訓練している。

 カウンターを後にしたモーリスはやり場のない怒りを抱えていたが、それをぶつける事よりも、すっかり空いてしまったスケジュールの穴埋めに悩んでいた。

 エントランスホールに用意されたフリースペース、『待ち合わせ場所』にある椅子に腰を下ろし、天井を見上げる。

 高い天井、ニンゲンの出入りするビルを模して夢珠の力で建造された12階建ての建物。

 ビルに内装されるカウンター、イスを始め、全てがニンゲンの真似をして作られ、小人達がお役所業務をしている。

 モーリスがふと目線を戻すと、お役所の上層部にあたる小人が前を通り過ぎた。北区の管理団体、そのトップ、総支配人アレックスである。後ろに従者を連れてこんな『待ち合わせ場所』に赴くとは如何なる事態か。

 モーリスは目を見張る。

 アレックスを前にして椅子から立ち上がったのは赤いトンガリ帽子を被った小人と青いトンガリ帽子の小人だった。

 いったい何十年前のファッションなのか、明らかに時代錯誤で、現代の戦士からも浮いていた。

 民族衣装には違いないが、そんな来客が北区のトップにどんな理由で会いに来たのか、モーリスは聞き耳を立てる事をやめられなかった。


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