【言葉の魔術師・3】
オードリーの家に来て30分後、ある一定量の知識を吐き出したオードリーがふぅっと息をつく。一つの番組を終えたような達成感と共に、溜まっていたストレスがいくらか解消されたような気がする。
レンは精神的ダメージと体力を払いながら、聞きたかった情報を得るためにやっとの思いで質問した。
「その漆原さんはどこに住んでるんだ?」
「知らないわよそんな事」
ガクッとうな垂れるレン。
耐えていた精神的ダメージが限界に達している。まさかの一蹴だ。
「ストーカーでもするつもり?」
「んなわけねーだろが」
「やるかもしれんだろが」
再び散る火花。
ジンがなだめる。
「まぁまぁ、実は夢珠の事で調べていてね。【言珠】っていうレアな種類があるらしいんだ」
「まぁ、まさにめぐさんの代名詞のような夢珠ですのね。確かに、漆原さんを始めとした有名な声優さん達の夢珠が今スゴく都会で人気らしいですわ」
「本当かよそれ」
レンが反応する。
オードリーは当然といった顔で頷きを返し、言葉を続けた。
「始めはミーハーなコレクター人気だったみたいですけど、使った時の効果も面白いらしくて、今は中玉でも半年以上の予約待ちですわよ」
「はんとしぃ~!?」
レンがまたもやガックリとうな垂れる。
「面白いってどんな風に?」
尋ねるジン。
「見たこと有りませんけど、聞いた話では『空中に文字が書ける』らしいですわ」
レンとジンがニヤリと笑う。
「ビンゴだな」
「うん、間違いなさそうだね」
オードリーは、二人がその夢珠を欲しがっているようだと気付いた。その通りだが、そんなに声優が好きだったとは知らなかったと勘違いもしていた。
「そんなに有名じゃないヒトのならもっと早いかもしれませんけどね。手に入れたら眺めたり撫でてみたりするのがコレクター魂ですのに。使ってしまうなんてもったいないですわ。私には考えられません。でも、速水さんの夢珠ならこの身に使ってみても……あらいけないわ、オードリーったらそんなっ……」
一人で赤面してモジモジし始めるオードリーを置いて、ジンとレンが顔を見合わせる。
「半年はさすがに……」
ジンが眉根を寄せる。
「やっぱり一か八か行ってみるか」
「そうだね、それしかないと思う」
レンの言葉に頷くジン。
オードリーは二人の様子にハッと驚き、
「まさか本当に漆原さんに会いに行くんですか!?」
その問いにジンは少し考え、答えを返す。
「その夢珠、【言珠】がニンゲンの声優さんから産み出される物で間違いなければ、そのチカラはかなり実戦的なモノだ。昨日襲われた黒い邪夢だって一撃で倒せる程の威力を僕とレンはこの目で見てる」
頷いてレンもその後に続く。
「都会でそのチカラに気付いた奴らがこぞって欲しがるだろうな。戦士なら絶対に欲しい。待っててもこんな田舎じゃ絶対に回ってこないぜ。俺たちの地区にはあの黒邪夢が実際にもう現れてるんだ。俺たちには必要なチカラだ」
「そうだね、黒いヤツが現れる度に他の地区に応援を呼んでたんじゃ、後手に回るばっかりだ。それじゃあ最悪の事態になった時に甚大な被害が出る」
真剣に話し合うジンとレンを見て、オードリーが顔を赤面させたままで言う。
「私、勘違いしてましたわ。二人とも声優ファンでただ夢珠が欲しいのかと思って……真剣に、町の事を考えてたんですのね」
「あたりまえだろが」
レンの白い目線が刺さる。
ジンは微笑んでいる。
「またオードリーのような被害者を出さないためにも、僕たちは強くなりたいんだ」
オードリーはキッと視線を上げてジンの目を見る。
「わかりましたわ。東京の北区ですわ」
「……え?まさか漆原さんの?」
「知ってんのかよ!!」
「ファン舐めんな!」
何故か逆ギレされて再び火花が散る。
「ありがとう、オードリー」
「私は行けませんから、何かお土産お願いしますね?」
ジンのお礼の言葉に、オードリーが笑顔を向けた。
さらに付け足す。
「めぐさんグッズは殆ど持ってますから、本人の使用済み実用品か夢珠の小で構いませんわ」
(こいつの方がストーカーじゃね?)
レンは思った事は黙っていた。