【言葉の魔術師・2】
「ジン様!来てくれたのですね!嬉しいですわ!嬉しいですわ!」
ベッドの上でオードリーが目をキラキラさせていた。
「俺も居るんだがな」
「アンタは嬉しかないのよ!」
レンとオードリーが火花を散らした。
横でジンが苦笑して見守っていた。
オードリーは自分の寝ぐらに戻っており、一応安静にしているようだった。
夢珠の効力で回復した体は、特に異常が見られないが、そのチカラは全て解析されたわけではない。使った夢珠が予定外の副作用をみせないか、その様子見の期間だ。少なくとも丸一日、安静にしていなければならない。
「暇だろうと思ってね、話し相手になりに来たよ」
ジンが言う。
当初の目的の一つには間違いなく予定されていた事だ。だが、昼の部リーダーのスタローンとの会話を経て、今はもう一つの目的を生じている。
「オードリー、そーいえば昨日の夜、漆原さんの話をしてたじゃない?あの時に、声に魂を込めるとか言ってたよね」
「そうですわよ。声に魂を込めているっていうのは、本人もたまにだけど、基本的には私達ファンやリスナーがよく言っている事ですのよ。それにおいてはめぐさんは神よ、神」
「声っていうか言葉に?チカラを込めることが出来る?」
「そうよ。めぐさんの言葉には魂が宿るの。あらやだ、アンタも私と漆原談義がしたかったの?」
「違う!いや、違わないか……」
「結果的にはそうなるよねー」
「コトダマって知ってっか?」
「知ってるわよ。コトダマと言えばめぐさんよ。声優界じゃ当たり前の話よ。知らないの?アンタ遅れてるー」
「知らねーよ!俺は声優界じゃねーんだよ!」
「めぐさんのまたの名を『言葉の魔術師』とか『声の魔術師』って言うのよ。覚えときなさい」
「なんで俺に対してだけは態度が違うんだよ」
「当然でしょ。元はと言えばアンタの所為なんだから」
「それはそーなんだが」
「でも他にも声優さんって居るよね。他の人じゃダメなの?」
「まぁ、他にも新しい声優さん出て来てるし、好きな人は好きなんじゃないですかねぇ?でも顔だけだったり、歌手のまねごとみたいに歌ばっかりやってるのも居るし。その点めぐさんは演技も神ですよね。歌は歌唱力に疑問が残るけどいやいやいや、その妖しい歌唱力を差し引いたとしてもね、やっぱり魂というか、やっぱり言霊ってやつ?それが感じられるかどうかだと思うのデスよ。だいたい今のアイドル声優にろくなの居ないじゃない。田中まゆみんに一目置かれてんのよあの人は。あの人だけは!やっぱり演技がしっかり出来てないと上には上がれないわよね。そのうちアイドル声優って言葉も廃れて来るんだろうけど、いざそれが無くなった時に何が残るのかって事よ。声優が声のお仕事しなくてどうするのよ?いくら流行だ声優ブームだって言っても、いつか波が去る時が来るの。その時に歌ってる場合?違うでしょー、まぁ、私は歌がやりたかったんです!ってハッキリと転向したヒトも居るけどね。あははは、ある意味、潔いわ」
「……始まったな」
「ああ。」