【言葉の魔術師・1】
翌日、ジンとレンの二人に7日間の出動禁止命令が下された。
部隊の編制を勝手に変えた事、それによる怪我人が出た事。さらに巨大邪夢に対してのジンの戦闘行為が問題視されての処分である。
最後のジンの戦闘行為については、オードリーの救出を成功させ、またマサルも危ない所を助けられたとの証言により、不問とされた。
「まぁ、お前達は日頃よくやってくれているからな、名目だけは仕方ないが、いわゆる休みだ。この機会に羽根を伸ばせ」
シュワルツは笑って二人の肩を叩いたが、やはりどこか気が重い。
確かに自宅謹慎というわけではないので出かけるのは自由だし戦闘訓練だって出来る。事実上の長期の休みだ、旅行だって出来るだろう。
太陽が高く昇り、もう昼も半ばでとっくに寝ていなければならない時間なのだが、二人は眠れないで居た。
田舎町のなかに閑散とした住居が建ち並ぶ一画、樹木が生い茂る神社の森がある。神主の居ない形だけのその神社の本堂に寝床を作り、ジンとレンは暮らして居る。
とはいえ、気ままに寝床を移動しているので今は神社に居るだけで、また気が変われば町の方に移動するかもしれない。自由と言えば聞こえはいいが、同じ場所にずっと居座る事が出来ないのだ。それは見つかる危険をはらむ毎日なのだから。
「レン、出かけようか」
ジンが言った。
すでに身仕度を開始している様子で、どうやら聞くまでもなく決定事項だ。
「どこにー?」
「ずっと中に居ても落ち込んでしまうだけだし、あの力の事、知りたいだろう?調べに行こうよ。あと……オードリーの様子を見に行って、武器も見直して、防具も欲しいな」
「この時間にかよ、シュワルツぜってーに寝てるぜ。起こしたら殴られるぞ、あのぶっとい腕で」
「何もシュワルツだけじゃないさ。教わるのは他の人だってかまいやしない。例えば、【昼の部】のリーダーとか」
「あー、ナルホド。そりゃあ起きてるわ」
「行こう、ほら」
ジンが投げた赤い帽子を掴む。
「お前話した事あるの?昼のリーダー」
「あるよ。シュワルツとは昔、若い頃ライバルだったらしい。筋肉もムキムキで、タイプがよく似てるよ」
「名前は?」
「スタローン」
「……乱暴そうな名前だな」
☆ ☆ ☆
「よく来たな!元気そうだなボーイ!」
「お久しぶりですスタローンさん」
「噂はよく聞いてるよ、こっちは相棒のレンだな。よろしく!」
長めの黒髪で堀の深い顔をにこやかに、筋肉で太く張り詰めた両腕で豪快にハグをする昼の部リーダー、スタローン。
「何やら失敗して落ち込んでいるかと思ったが、心配なさそうだな!」
「もうご存知ですか。参ったなぁ。今日は戦闘能力についてちょっと聞きたくて来ました」
「おお、何っでも聞いてくれ!シュワルツじゃなくて俺に聞きに来るなんて嬉しいじゃあないか、見る目があるぜぇ!HAHAHA!!」
笑い方も豪快だった。
「……なんか熱くないか?」
レンが額の汗を拭った。
特に温度変化は無いはずだが、目の前で豪快に笑うタンクトップの男が胸板をはち切れんばかりに上下させているのを見ると、何やら汗ばんでしまう。
ジンは見慣れているのか、マッチョに耐性があるらしく、涼しい顔で昨夜の戦士たちの様子を話している。
スタローンは前で腕組みをしながら時折頷いて聞き入っているようだった。
「OK、わかったぜ」
スタローンがニヤリと笑う。白い歯が光る。
「ボーイ達は【言葉玉】ってわかるか?」
ジンもレンも頷く。ジンが答える。
「夢珠の中玉クラスで、使うと言葉が話せるやつですよね」
「YES、言葉が話せない奴が話せるようになり、外国の小人とも話が通じるようになるアレだ。今では誰でも必ず一度は使うようになってるから、コミュニケーションも楽になった」
夢珠のなかに強く反映されたニンゲンの想いや意志、特技などが小人達に影響を与える。
小人達にも国は有り、日本も居れば米国や中国も居る。
多国籍の都市では言葉の壁を乗り越える為、小人が産まれた段階の初期の時点で言葉玉は与えられる。
言葉玉を産んでくれるニンゲン『学校の先生』や『英会話教室の先生』は優遇される存在だ。
スタローンは話を続けた。
「その言葉玉の中に、よりハイクラスでレアな物がある。大きさは大玉クラスに間違い無いと思うが、呼び名を【言珠】と言うヤツだ。その戦士が使った技はそれで得たチカラだ」
「コトダマ……」
レンは呟く。どこかで聞いたような響きだ。
「言葉にチカラを込める。もしくはその言葉の持っているチカラを解放する。言葉に魂を込めるとも言うがな、何しろレアだからな、こんな田舎じゃ手に入らんぞ。何処かで手に入れたんだろうがなぁ」
……ごく最近、聞いた気がする。
「それを使えば『炎』という文字を解放して剣に炎を纏わせたり出来る。さっき聞いた『斬』という文字は、そのまま『斬る』チカラだな。ニンゲンから手に入れられるんだろうが……せめて、どんなニンゲンが産み出すのか解ればなぁ、その家に直接行って運が良ければ手に入るんだろうがなぁ」
……思い出した。
「アイツに聞くのか」
レンは嫌そうに言った。