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【長い夜・3】

 私は最初、冗談が本当になったのかと思った。

 マサルが指を差したボーリングの玉が、宙を飛んで落ちて来たからだ。

 その瞬間、余りにもビックリし過ぎて、二人とも笑ってしまった。

「やだぁ、ホントにぺしゃんこになったらどうするのよっ」

 そう言ってマサルの腕を手のひらで叩くと、マサルも引きつりながら笑ってたのよ。

 でも、何かがオカシイと、思ったの。

 その異変が、異変過ぎて頭の中がグチャグチャになって行くのが解ったわ。

 飛んで来たボーリングの玉が、私達の居る本棚の狭い縁に引っ掛かって、落ちないんですもの。

 目の前で揺れる圧迫感に、最初の異変を感じてた次の瞬間、その玉の足元に、何本かの長い管が伸びているのが見えた。それは本棚の淵に横から突き刺さるように、隙間に食い込んで大きな黒い玉を支えてたの。

「あれ?何で足が有るんだろう?」

 そうして見上げると黒い玉はその場でゆっくりと右周りに回転して黒くてピカピカ光る六角形のプレートのような、玉の中心をこちらに向けたの。

「あ、お尻だったんだ、今まで。失礼しちゃうわね」

 私が言うと、グイグイと私の左腕をマサルが引っ張り出した。

 最初はゆっくりだったけど、だんだん服が破けちゃうくらいに強くなってきて、ムカって来てマサルを見たら、マサルが真っ青な顔で震えてた。

 変なボーリング玉を見上げながら、口元をガクガク震わせて、両目に涙を浮かべて、鼻から汁出して、それは二つ目の異常だったわ。

 でも私の頭の中はすでにグチャグチャになり始めていたから、それが何なのか分からなかった。

「何なんだよコイツ……?何なんだよコイツ!?なんなんだよオマエ!!」

 マサルが誰に叫んだのか解らないまま、私は声を聞いたの。

『喰ワセロ、ハラヘッタ』

 どこかで聞いた声、

 ニンゲンが使っている、レコードや古いラジオがノイズするような、耳障りな不快音。

 それが部屋に響いていたラジオのDJの音に合わさって、余計に不快な声になって私の耳に届いた。


 ドスッ


 何か鈍い音がして、私の身体が揺れた。

 え?何だろう、あれ、あれ、痛い。痛い、痛い、アレ?痛い痛いイタイイタイイタイ!!!

 私のお腹に黒くて長いモノが突き刺さって、生えてた。

 思わず黒い剣みたいな何かを右手で掴んで、冷たい金属みたいな薄っぺらさとベトベトした液体が右手を汚したのが伝わって解った。

 何かが私のお腹を刺したんだ。

 それがお腹の中を貫いて背中から曲がった事、

 私の身体をそのまま凄い力で持ち上げた事、

 マサルが私を見上げて叫んだ事。


「オードリー!!邪夢だ!!オードリー!!」



 もう、……遅いわよ



 持ち上がる身体を意識しながら、黒い剣がコイツの触手なんだと解った。

 そう思ったらムカついて、汚ないって思った。

 私の身体を汚した。私に傷を付けた。

 黒い玉のてっぺんまで持ち上げられて、メチャクチャ腹が立って来た。

 腰に巻いた私の武器を左手で引っつかんでフックを外す。

 私の愛用の武器はムチだ。

 愛しいジン様のために練習中の、邪夢を、

 このクソッタレの邪夢を捕縛する為のムチだ。

 私の身体を汚してくれたお礼はしなくてはならない、絶対にタダでは帰さない。

 アレ?

 ちからが抜けてく、

 おかしいな、左手が思うほど動かないや、

 クソッタレをぶっ叩いてやるのに、


 やりたいのに、


 あ、そっか、


 お腹に刺さってるか、ら、だ、


 痛いなぁ、やだなぁ、


「オードリー!オードリー!オードリー!オードリー!」


 うるさいなぁもう、


 早く逃げなさいよ、


 アンタなんかに何が出来るのよ。

 そんな小ちゃな剣で何が出来るってのよ、

 レンじゃあるまいし、

 ブルブル震えてみっともない、

 笑っちゃうわ。

 レンの半分もないじゃない、あ、レンのやつ、

 何が邪夢が居ないのよ、


 メチャクチャ特大が居るじゃない、文句言ってやんなきゃあだめだ


  あー、 だめだ、


 ああ、


 ちからが


 ぬける





 しん


 じゃう


 わた し





 やだなぁ



 やだ なぁ




 ジンさま



 ジンさまぁ




 たすけに

 きて


 ジンさ ま ぁ





 あたし



 しんじゃ うよ



 もうイタクない



 あ、


 だめだ



 ジンさまぁ



 会いたいよぉ




 さっき


 もっと


 抱きついておけばよかった





 ああ



 ねむい




 やだなぁ



















 やだよぉ










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