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【長い夜・2】

 

 中島家で黒い玉のように変化した邪夢に向き合うのは大剣の剣士。名をロキと言う。

 小人達の中では長身で、細身の二枚目顔は女子の人気も高い。和風の鎧を身に着け、青い長髪を流した頭部には額当てをし、大きめの左小手をしている。この小手は盾の役割もこなす重厚な物だ。そして邪夢に対して構える大剣は日本刀のように片刃でわずかに曲線を描き、自身の体格を模したように細身で、銀色に輝きながら月明かりを弾いた。

 丸い邪夢は黒い外殻から触手を伸ばし、小さな小人達を捕獲しようと跳ね回る。黒く、硬く変わった触手は鋭く、刃物のような斬撃を伴いながら不規則に空を切った。

 素早く躱す小人達。

 次から次へと追って来る触手をロキが大剣で払うと金属同士が織りなす鋼の音色が響いた。

 その音色を不協和音が邪魔をする。

 鈍重ながら荒々しい、ガラスとアルミサッシが軋む音だ。

「なんだ?」

 ロキが音をする方を振り仰ぐ。

 部屋の窓だ。

 月明かりを背中に浴びて、赤いトンガリ帽子を被った小人が必死な形相で窓を叩き、何かを叫んでいる。

 どうやらこの地区の同族らしいと見て取ったロキは、弓使いの女性に向かって言う。

「おい、アルテア!やめさせろ!」

 急に指示を受けた弓使いは窓を見上げながら言う。

「こっちのリーダーのシュワルツだっけ?見学者がどうとか言ってなかった?あのコじゃないの?」

 金色の髪を後ろで束ね、軽装な鎧具を部分的に着けた狩人。アルテアは会話しながらも移動する足は止めない。常に動いていないと邪夢の跳躍に遅れを取るからだ。

 ロキが返す。

「それは解ってる。だがアイツが邪夢の標的になったらひとたまりもないぞ」

「俺が行こう」

 ムチの戦士が本棚の引き出しを使って跳躍した。

「じゃあたのむわ、バルド」

 弓のアルテアが跳躍する仲間の背中に言って、振り向きざま弓を弾く。光の矢が二本飛び、邪夢の体に命中する。たがそれは硬い外皮に阻まれ、深くは突き刺さらない。


 バルドは灰色のローブを風になびかせながら、素早いムチと身のこなしで窓に辿り着き、赤帽子のレンと対峙する。

 バルドの姿を確認すると、レンは窓ガラスを叩くのをやめた。窓ごしにも声は届き、会話も可能だった。

「なんだお前は、邪魔しに来たのなら帰れ!」

 黒い髪、切れ長の目、彫りの深い顔立ちのバルドは一喝する。

 だがレンは怯まなかった。ジンが向かった家を指差しながら言う。

「俺はレン。この街の防人だ。この隣の家にもっとデカイ邪夢を見たかもしれないんだ。一緒に来てくれ!」

「なんだと……どんなヤツだ」

「ボーリング玉みたいで、今アンタらが戦ってるヤツよりもっとデカイ。それに黒くてテカテカしてる」

「本当か?見たかもしれないって事は定かではないのか?」

「俺、今までもっと小さい邪夢しか見た事なかったから、さっきソイツがゴキブリ食べて黒く光るまで、邪夢が変身するなんて知らなかったんだよ!隣の家にまだ仲間が居るはずなんだ!頼むよ!!」

 レンが叫ぶと、部屋の中からロキの声がした。

「バルド!どうした!」

 バルドが叫んで答える。

「どうやら隣の家にもう一匹居るらしい!今この邪夢より二周りはデカイぞ!隣で仲間が危険だと応援要請だ!」

「なんだと?」

「ウソでしょ?」

 ロキとアルテアが目を見合わせる。

 だがすぐにロキが口を開く。

「この家で増えすぎた邪夢がエサを求めて移動した可能性がある。隣の家がここより大きいなら間違いないだろう」

「どうする!?あ!コラ待て!!」

 窓からバルドの声だ。

 ロキが振り向くとバルドが頭を抱えているのが見えた。

「アイツ、一人で走って行っちまいやがった!」

 レンの姿は窓辺に無く、その小さな身体は既に屋根を飛び出して居た。


 ロキが苦笑しながら言った。

「仲間が危ないんだ、待ってられなかったんだろう」

 アルテアも口を開く。

「この田舎じゃあ、ろくな戦士は居ないんでしょう。確かに危険だわ」

 バルドが戻って来てロキに言う。

「どうやらのんびりしていられなくなったな」

 ロキは頷くと大剣を構え直した。

「ここはバルドと俺で片付けよう。アルテアは隣の家に行け」

「私が?」

「でも戦うなよ、他のヤツを逃がす事を優先させろ。こっちを片付けたらすぐに向かう。それまでは無理するな」

「……わかったわ」

 バルドがアルテアに言う。

「この西隣の家だ。さっきのヤツの名前はレンと言うらしい」

「はいはい、レンね。アンタ達、早く来ないと怒るからね」

「解ってる、早く行け」

 ロキが促すと女戦士は小さく舌打ちして飛翔した。


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