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月夜の☆じゃむパニック!~YUMESAKIMORI外伝~  作者: 夢☆来渡
第二夜【戦士とチカラ】
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【戦士とチカラ・8】

 悪い夢を見た結晶が大きくなり黒い夢珠が形成され、それを邪夢が食べてくれる。

 それだけならばまだ良いのだが、邪夢は夢珠を全て丸呑みするわけでは無く、かじって残す。その食べた残りカスをまたヒトに還していた。

 体液にまみれた食べかけはレンが俗称する【毒】となってヒトに還る。すると、また次も悪夢のタネとして再成長する。形成されても食べられる事のなかった黒いタマゴからは、また新たな邪夢が産まれる。

 繰り返す悪夢のリサイクルは邪夢たちに都合の良い螺旋を描いていた。


 黒い光に導かれ、闇の中から醜態を晒して邪夢が(うごめ)く。

 身体に覆われた触手は長く、張り巡らされた毛細血管のように脈動しては波打つ。

 その体躯は約15cm、触手を広げれば30cm以上にはなろう。

「でっっけぇ!!なんだありゃ!」

 レンは喜々として驚いた。

 思わず笑ってしまう、それ程までに予測を越えた大きさを見て、自然と身体がうずいた。落ち着いて見てなどいられない。足が跳ね回ってしまう。

 ジンは呆気にとられて言葉を失っている。パクパクと口を動かしてただ見入っている。


 遠征組みの三人はそれぞれに武器を構え、自分達をはるかに凌ぐその巨体に対峙している。

 それを見るのは初めてではないのだろう。至極落ち着いて陣形を作って居た。

 大剣の男剣士を前に、ムチ男と弓女がその後ろに。三角形を作りながら距離を測っているのが分かる。

 レンやジン達のような三角帽子は被っておらず、肩当て、小手や胸当てなど、より戦闘向きな防具で身を固めていた。

 先陣を切ったのは弓矢だった。女の小人が弓を構えると、白く光る一筋の光の弦が張られる。

 そして弦を引き絞ると黄色く輝く光の弓矢がつがえられる。それはジンの青白い矢よりも太く長い。

 そしてその数が増える。

「二本撃ち……いや、三本!?」

 ジンの呟きを待たず、放たれた黄色い矢は閃光となって三つの軌跡を描いた。

 それは空気を貫きながら邪夢の体躯へと突き刺さる。申し分無く深く、鋭く。


『ぎ、ぎぎ、ギィィィ!!』


 邪夢の巨体から耳障りな悲鳴が響く。小さな戦士の存在を認識していなかったのか、余りにも無防備に攻撃を受け、さらに戦士に向かって愚鈍な反撃を開始する。

 長く伸ばした触手が振り抜かれ、三人の居た場所を打ち抜く。機敏にそれを躱すと床の表面に重厚な打撃音が響いた。

 次いで一本、二本と触手が伸び、捕獲しようと、さらに身を躱す小人達を執拗に追う。

 軟体生物のぬめりを(まと)わせ襲いかかる腕を飛び躱す三戦士達。

 最も機敏な動きを見せたのはムチ使いの男だった。

 ムチの中ほどから先端が輝き、光のムチとなってその長さがスルスルと伸びる。ベッドの脚、テーブルの脚、小さく突き出た物掛け用のフック、引出しの取手など、あらゆる場所にムチをうならせ、ムチの伸縮や発生する遠心力を利用して小人が飛び回る。伸び縮みする片腕のブランコのようだ。

 上下左右に飛び回って距離を取り、隙を見ては巨躯に向かってムチを振るう。光鞭の先が的確に邪夢の体表や触手を弾き、裂き、焦がした。光の先端はバチバチと音を立て、触手とかち合うとビクンと触手を痺れさせる、電撃を帯びたムチであった。


「凄いね、あんなの見た事無いよ」

「ああ、そーだな。でもさっきから大剣の奴がイマイチなんだけど。アレなら俺のが強いんじゃねーか?」


 ジンの言葉を不満で返すレン。

 確かに、大剣の剣士は触手を何度か振り払いながら斬りつけているが、ダメージと呼べる程の斬撃を与えていない。邪夢の大きさからそう見えてしまうのだとしても、期待していたレンにとっては不満が募る姿だった。


 だがそれは……



「そろそろ終わらせましょう!」


「雑魚とは遊んでられん」


「二人とも肩慣らしはもういいのか?」


『充分だ(よ)』


「わかった。じゃあ斬り捨てる」



 ……余計な思慕だ。



【斬ーざんー】



 大剣に纏いし青い光


 それは頭上で形を変えて文字となる


 頭上に浮かぶ文字は【斬】


 戦士が構え上げた大剣は青い炎を上げながら、宙空の文字と合わさり=混ざり合い、さらに大きな炎となりて大剣(つるぎ)を燃え上がらせた



(ザン)!!」



 振り下ろすと同時に大気に生まれる巨大な炎の刃影。斬撃そのものをカタチと成してそれは滑空し、



 大気を斬り裂き



 遠く離れた邪夢の巨体をも斬り裂き



 一直線に空間を()いだ。



 分断された巨躯は青い炎と断末魔の叫びを上げ、暗黒の光を撒き散らしながら跡形もなく崩れ落ちた。




「……何だよアレは」

 赤い帽子が唖然とするのはこれが最初だろう。

 見た事もないチカラの存在を消化するにはまだ彼の知識は乏し過ぎた。


 大剣の剣士は三人で再び部屋の中央に集まり、陣形を整えた。

 そして言う。


「次、行こうか」


 ベッドの下から這い出した先程より大きな邪夢に向かって、大剣を構えた。


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