リレションを探せ
ワンスはベットの脇の椅子に座り、寝ている渡りの御子と床に転がる失神中の魔の物を見詰めている。
キャレチャー家の、子育てはリレションが主立って行う。キュクロープスでも、電黄鼠でも、人魚でも擬人化が可能になるので問題はない。リレションと念の疎通が出来るまで、人間とは隔離され例え両親であろうと会うことはない。早くて一か月(旦那様がそうだった。)長くなるとニ年は従魔だけの生活になる。
通常は、通常ならばそれほど難しい事ではないのだ。しかし今回は異例づくしで、今後の方針を執行部の連中が練り直している。
『渡りの御子』
従魔術師でないなら、魔道具の扱いが得意な少し変わった人間でしかない。しかし此処はキャレチャー家。御子の教育担当従魔ギャドンが渡り様について必死に資料を集めている。(フフ・・ギャドンのパニック状態は最高に笑る・・フフ)キャレチャー家の従魔は優秀だし、準備が整うのは時間の問題だろう。
一番の問題は、このピンクの魔の物だ。見つかるまでに3時間掛った。
従魔術とは 己の念を鎖に変え、魔の物を絡め取り従える術だ。優秀な従魔術師は五歳の頃から従魔を従える。
しかしキャレチャー家の当主は生まれてすぐに、魔道具を使い念を鎖に変え従魔を従える。魔道具があれば誰でも出来ると勘違いする奴がいるが、そうではない。魔道具は赤子と共に生まれ落ちるのだ。儀式が終われば砕け散る、唯一無二の魔道具だ。
儀式の後、ワシの呼びかけでリレションは御子と対面するはずだったが、いつまで経っても現れない、静寂な空間に戸惑いが滲み出した時儀式担当従魔が警備の担当従魔に捜索を指示した。リレションになると擬人化する。儀式の後、従魔のなかで人型はリレションのみになる。(吸血鬼は、紛らわしいから隅に待機だ)力弱き者が契約すると、意識を失うことは稀にある。しかし擬人化するので、何処にいるのかなんて、探すのは簡単なはずだった。中庭、裏庭、屋敷も結界内は隅々まで捜索したが、発見できなかった。
万が一、擬人化が行われない事態を想定して、すべての従魔にリレションのみ操作可能な魔道具を使用させたが、動かすことが出来た者はいなかった。
執行部は儀式の失敗を疑ったが、砕けた玉、御子の念の減少が成功を表している。
だがリレションは現れない。儀式は従魔のみで、執行される。当主であっても干渉は厳禁だが、あまりの事態に当主へ指示を仰ぐべきとの、意見が出始めた時。
警備担当が池の底に沈んでいた。小さな魔の物を連れてきた。こいつはキャレチャー家の従魔でなく、結界内に侵入していた。結界担当はショックでぶっ倒れた。(八咫烏の爺さんが青くなっていた。念写すればよかった。百年は楽しめたのに、失敗した。)
確認の魔道具を準備するが、どうしても魔の物の意識は戻らない。
渡りの御子の儀式は桁違いだった。鎖が舞い上がったとき、キャレチャー家の更なる繁栄を疑う者は誰一人いなかったはずだ。あまりにすごい従魔術だったので、結界外にリレションが表れたかもしれないので、念の為捜索に当たらしている。、件が居たらしいが、あいつはほんとに厄介事を持ち込んでくる。捜索班は、件を初めに調べたらしい、心配事は少ない方がいいからな。もちろんリレションではなかった。
警備、結界、儀式、教育、執行すべての部署が今回の事態の後始末で忙しいので、
ワシが御子の御守りと魔の物の監視を引き受けている。
そろそろ発見から1時間だ、魔の物がモゾモゾ動き出した。目が覚めるまで時間はかからないだろう。
あぁ・・。これからが大変だ。
☨
頭が痛い。ここはどこだ。冷たい床に転がっている。辺りを見回す。
『お目覚めかな』
『なっ。ここは、何でリレションのあんたが・・』
『まてまて、そう慌てる事はない。ちょっと試して貰いたいことがあるだけだ。そのあとはちょっと話をして、ここから叩き出してやるから、安心しろ。』
『な、なんだ。試したいことって。』
返事をしながら、俺の頭はフル回転だ。こいつが此処に居るって事は、リレションのことだろう。俺は、名が無い。従魔にはなれない。擬人化もしていない。己を超える力とやらも感じない。リレションでは有り得ない。では、何の話だ。結界の事か。そんなのは秘密でもない、さっさと教えてここから立ち去るのだ。
『簡単さ、この魔道具のネジを回して欲しいだけだ。』
『これを、回せばいいのか、そうすれば俺は自由なんだな。』
『いや、結界の破り方も話してもらう。』
『分った、それを貸せ』
豪華に細工された箱を受け取り、ネジをまわす。
カラカラ・・・チリンチリン
穏やかな音色が部屋中に響いた。
リレションの目に、驚きと戸惑いが宿る。ヤバイなんだこの空気は、はやく逃げなくては『結界が効かなかったのは、名の無き魔の物だからだ。約束通り俺は自由だ。』言うか言わずか俺は窓へと駆け出し逃走を試みる、リレションはベットを凝視し動かない、早く、早く。結界の外なら移動術が使える。運よく開いていた窓から飛び出す。
俺はバカだ。ここはキャレチャー家、それも儀式の後だ。ただ飛び出すなんて最悪の一手だ。百は居るであろう従魔たちの視線を受ける、どうする。一瞬考えたその時。『すまない。約束は守れそうにない。最初の者一緒に来てもらおう』背後には、竜種が微笑んでいた。