儀式
執務室のドアがノックされる。
『旦那様、儀式の準備が整いました。中庭に従魔をお集め下さい。』
『奥様と一族の方々の従魔達はすでに集まっております。』
「わかった、後は頼む。。俺の最初の者」
『はい、旦那様。』
ワンスからの、報告を受け敷地内に待機していたすべての従魔に中庭に集まるように念を送る。
生まれれば終りではない。しきたりに従い儀式が執り行われ、子の素質が表れた時こそ、キャレチャー家の跡取りが誕生するのだ。素質が無ければ・・・部屋の窓から従魔が集まる様子を、硬い表情で見続ける・・・
☨
中庭では一際目立つ集団がコソコソ話し込んでいる。
『警備、結界は補強はどうだ。』『はい、アマト様が補強の担当に』
『八咫烏の爺さんが!重い腰を上げたもんだな。』
『アマトの爺さんは初代当主様の従魔だったからな。思い入れが違うんだろう。まあ、爺さんがいれば問題はないだろう。』
『今回、件が、表れたんだろ』
『正門の前に陣取ってるぞ。あいつが現れると碌なことがないからな。』
『件にまで、噂が届くとは外は大変なことになってるのか。』
『お前は、執務室に籠りきりたからしらないのか?』
『ギルドのおっさん、来てただろ。』『来てた来てた。何か、旦那様にすげー文句言ってたわ。』
『まあ、そういう状態ってことさ。』『大分、従魔が集まったな。』
『旦那様が念を先程送ってこられたから、そろそろだろ。』
『俺、選ばれたら、どうしよう。おっ、心配スンナ。俺たちズッ友だ。』『ハイハイ』
☨
「どうなりましたか。」
『滞りなく、儀式の準備は終了しました。』
「そう。ワンス、貴方も中庭に・・・。この子の事はよろしく頼みます。」
『承りました。』
最後に赤子の頬を撫でる手は、かすかに震えている。腕に抱く子を、ワンスに託すと疲労感が湧き上がりベットに崩れ落ちる。彼の子だ。問題ない。すぐに私の元に帰って来てくれる・・・
☨
ワンスが中庭を見下ろすバルコニーに現れると、従魔達はワンスが抱えるゆりかごを見て歓喜の声を漏らす。何故なら、そこからは感じたことのない、強い念が溢れ出していた。
『みんな、次の当主様だ。見ての通り問題なく念を発している。気付いた者もいるだろう、この方は渡りの御子の可能性がある。最初の者に選ばれれば、己の限界を超えた存在に成るやもしれん。』
ワンスの言葉を聞き、従魔達の熱は上がっていく。
『しかし、ワシが三百年の間に従魔術師の渡りには五人出会ったが、才能を開花された方は一人だけ我らがキャレチャー家の初代当主様だった。残りは従魔はリレションのみ、しかもリレションとの念の疎通もままなん様子だった。』
『一族の当主になるお方だ。渡りの御子でも心配など無縁だ。大いなる力を授かり、我らがキャレチャー家ために尽くして欲しい。さあ、儀式を行う、変化しているものは元の姿に戻ってくれ。大型の者は裏庭に移ってくれ、儀式に支障はない。』
擬人化を解き竜種になったワンスが黒く輝く玉をゆりかごに掲げる。二百は超すであろう魔獣、聖獣、魔者、力弱き使い魔も一斉に頭を下げた。
ゆりかごから溢れた念は、黒い玉を通り、複雑で美しい鎖と成り最初の者を絡め取るために、宙を舞いあがる、まるで天空に飛び立つ龍の様であった。辺りが光に包まれる。
パリーン
玉は砕け散った。
『最初の者に選ばれし者、御子の元へ』
ワンスが高らかに叫ぶ。
静寂が支配した。誰も身動きせずその時を待った。
しかし最初の者は、すぐには現れなかった。