幕切れ
終焉とは思わぬ事が引き金になって訪れる。
樹齢千年は超える巨木の天辺で5羽の聖魔が辺りを見まわしている。
『大丈夫か?』
『親父は今日海までホエルを捕りに行ってるから。』
『移動してないか?』
『大丈夫、町にいる。確認した。』
『じゃあ、行くか。』
『『『『『せーの!!』』』』』
羽ばたく事無く落ちていく紙飛行機の様に静かに風に任せて、木々の間を上手くすり抜け地面の直前で1度羽ばたくと上手く着地する。5羽が揃うと駆けだす。5年間この日の為に準備していた。
ガルーダは子育てをする稀な魔の物である。期間は15年から20年ほどで、生まれて3ヶ月で飛び始めるが10年間は狩りもしない。最近やっと10回のうち2、3回は狩りに同行する。そして5年ほど時間をかけ成長していく。普通のガルーダなら問題はなかった。
しかし5羽は彼女に出会って従魔術(親父曰く、従魔術とは程遠いぐらいの絆)に囚われ精神が他の雛よりクリアーになってしまった。15年かけて整える自我をたった数時間で開花させた雛たちは戸惑った。時間が経つにつれて彼女への思いが莫大に募っていく、幾度となく繰り返す目的地が不明の逃走劇。無駄だとは分かっていても抑えきれないのだ。
不毛な毎日を送っていた、5年前のある日1羽の雛が言った。
『スゴイ…。綺麗な紅だ。』
木の枝に突き刺した大きな水牛を啄ばむのを辞め、残りの4羽が辺りを見回す。
『『『『何が?』』』』
『主が見える。』
『『『『マジで?!』』』』
4羽は首を高速で振ってもう一度探す。
『何所にいるんだよ。嘘つくんじゃねーよ。』
『頭の中に見えてるんだ。なんだこれ?あ、主も飯食ってる。』
『なんで見えるんだ、お前だけ。ずるい!!』
『場所は分かるのか。』
『えっ・・あれ?消えた!!』
『『『『なんで!!』』』』
彼女を見た1羽が目を閉じ呟く。
『監視魔法だ。・・・・もう一回は今は無理。ヤバイ、主の紅はヤバイ。今すぐ逢いに行きたい。』
いきなり翼を広げ飛び立って行った。残った4羽は呆然と見送っている。今まで一番早い速度で飛んで行く1羽の背に親鳥が舞い降りるのが小さく見える。翼の付け根を持たれ連行され皆の所に投げ込まれる。
親鳥は一瞥すると、また何所かに飛んで行った。
『お前何してるんだ。』
『主を見たら居ても立っても居られなくて。』
『じゃあ場所は分かったのか。』
『分からん。親父にいろんな所に連れて行ってもらわないと。主の居場所は見えても何所だかわからない。』
『居場所が分かる可能性があるなら・・・』
『『『『絶対に行こう。』』』』
どうすれば彼女に会いに行けるか5羽はその日を切っ掛けに5年計画を練った。
まず脱走を辞めた。彼女を話題にしない、親鳥も初めは不信そうだったが3年目からはそれが日常になって行った。
居場所を特定するために5年かけ巣に近い町を偵察する。親鳥と一緒に飛行訓練をマメにした。
監視の魔法の検証もした。念は感じない。ただ見えるだけの魔法であった。彼女にも気づかれていない。親父に魔法を教わるときにさりげなく監視の魔法について尋ねたが知らなかった。親父の監視をしてみるが彼女にのみに有効だった。始めは1ヶ月に1度だけさらに少しの間だった。成長と共に時間と回数が増加して今は週に1~3回、時間もかなり長い。見える時は事細かに残りの4羽に話して聞かせる彼女の事、周りの従魔について、周りに見える景色について、幸いなことに、彼女は巣に近い町に年に数回訪れる。屋敷も特定し町までの経路も幾度となく確認した。
次に自分たちを探知する魔法の種類を調べた。巣の周りをゆっくり飛び回っても早く飛んで巣から距離を離しても一定の時間が経つと現れる、飛行時間で親鳥に伝わる類の魔法の様だった。
逃走手段を考えた、飛べないのならどうするか。簡単だ走ればいい。だが、実はものすごい苦行なのだ。
ガルーダは地面に下りる事を嫌う。翼は誇りであり、存在意義なのだ。足は狩りのみに使うもので走る事は本能的に極力避けるべきものであった。翼を傷め飛べないガルーダは死を選ぶほどである。基本子育て中と雛の時以外は地面には下りないのである。もちろん5羽も地面に下りる事に激しい嫌悪感を覚える。飛行が可能になってから地面には近づいてもいない。走る事はガルーダで在る事を否定する事であり。あり得ない事なのだ。故に親鳥もまさか地面に下りるとは選択肢には入っていない筈である。迷わず町まで走っていくことを選択する。親が留守の時、1羽ずつ着地するが地面に足が着くと硬直する。1歩も動けなくなる。2年間繰り返すが未だに慣れる事はないが、立ち止る事無く移動は可能になっている。
そして今、5羽は彼女の元へ駆け出した。
しかし所詮、魔の物であった。経験も断然少なかった。脱出は成功したが自分たちが何者であるかを認識できていなかった。人の事も全く眼中になかった。彼女の事情も、なぜ親父が彼女の元にいないのかも考える事はなかった。ただ本能の赴くまま彼女を求めた。
町は突然現れた5羽のガルーダによって混乱に陥った。希少な聖魔である。遥か上空で飛行する金色に輝く朱い姿を見た事はあっても、間近で走っている姿を見た者はいない。
従魔術師達も素早く移動する5羽に術を掛ける事は出来なかった。従魔達も子供のガールダ5羽には手出しできなかった。5羽に恐れているのではなく、親鳥を警戒していた。
屋敷の前に到着すると5羽は一斉に鳴き始めた。
『『『『『会いに来たよ。従魔にして!!』』』』』
町中に響き渡るガルーダの鳴き声はとても切なかった。
『なんで出て来てくれないの?』
『どうしよう。結界で中に入れないよ。』
『監視で見れない?』
『無理だよ!』
『移動したのかな?』
ガルーダ達から少し離れた所に人が溢れ返っている。引き込まれるような紅の翼、輝く金色の鷲の体、恐れよりも神々しい姿に人はその場から離れることが出来ない。
『お腹減った・・。』
1羽が辺りを見回しニッコリほほ笑む、
『これだけ居れば簡単に捕まえられるね。腹ごしらえしよう。』
『『『『賛成。』』』』
5羽はスッと飛び立つと両足で人を掴み空に舞い上がった。
木に突き刺し啄ばみ、屋根の上で体を押さえ頭を引きちぎる。5羽のガルーダが思いのまま人を捕食していく。
辺りは人々の叫び声と泣き声が響き渡る。
『人はフクがあるから食べにくい。』
『肉も少ないしね。』
『2、3匹だと足りないね。』
『留守だし帰る?』
『途中に牛がいたよ。』
『飛んで帰ろう。主はまたすぐには来ないし。』
『『『『賛成。』』』』
『怒られるかな?』
『走ったことは内緒だぞ。』
『『『『了解。』』』』
5羽が飛び立とうとすると目の前に1人の人が立ち塞がった。
『人じゃない。主の従魔だ。擬人化してる。』
『主は何所?迎えに来てくれたの?』
5羽は屋敷の方を見る。
『やり過ぎだ。すべてを台無しにした。アイツが全てを話してないのが悪い。』
従魔が腕を上げた。5羽は水球に包まれる。
息が出来ない。いくら暴れても水球から逃れる事は出来ない。
なんで?
5羽は状況が理解できないでいた。意識が朦朧としてくる。
『待ってくれ。』
親鳥が現れた。
『駄目だ。』
『2度とこいつ等を主に近づけない。』
『駄目だ。お前も10年前に殺しておけばよかった。失敗した。』
『頼む・・。』
『死ね。』
親鳥も水球に包まれる。従魔は片手を上げると小さな黒い煙が現れる。
煙の隙間が光った。一瞬だった。
人の血だまりの中に美しい面影がなくなった黒い大きな物体を投げ入れ、青年は消えた。
魔法を使う人はいない、ならば危機を救ったのは擬人化した従魔である。擬人化と言えばキャチャレー家である。
すぐさま町の領主はキャレチャー家に使いを出した。訪れた従魔が1枚の念写を見せる。人々は写る青年に感謝の言葉をなげかける。
従魔は屋敷に向かって歩き出す。
『やっと掴んだ。もう逃がしはしない。』




