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アンコモン  作者: 蛙屋
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カラカラ

闇に響くあの音色


憎しみを絶やさぬように、忘れた事を諌めるように、間違いを正すように


瞳を開けばすべて忘れる


でも心は忘れない、心には少しずつ溜まっていく、まるで呪いのように


すべてを思い出すために・・・・



「ロベルト、お兄ちゃんがオモチャを作ってきましたよ。ほーら、カラカラ」


カラカラ・・チリンチリン・・


長方形の飾り気の無い箱に付く棒を回すと心地いい音色が流れる。


「お爺ちゃんの間違いでしょ。それ何?綺麗な音色だね。」

「そうだろ。ロベルトの健やかな成長を願って、《ジャジャーン、念育成装置従魔師バージョン》(青狸風)」

「?????」


ガチャ。

少し息を切らしバルトが駆け込んでくる。


《家の嫁をからかうのは止めてくださいよ。ルークさん。》

《ああ、出〇杉君、久しぶりだな。この度はおめでとう!素早い登場は、盗聴かい?さすがストーカー。》

《相変わらず、体型だけは〇ラえもん並ですね。何ですかそれ、ロベルトを実験台にしないで下さいよ。》


また始まった。理解不能な掛け合いが・・。音が鳴りやむと、ロベルトが愚図りだす。


「ほら見ろ、ロベルトも気に入ってる。これの良さが分かるとは将来有望だな。」

オッサンがまた音を流すと、ロベルトは静かになった。もしかして、珍しく役に立つのか?


「で、それなんですか?」

「念整師代わりの魔道具だよ。念を従魔術師の特徴のある念に変化させる。バルドの子なら素質があるだろうけど、お前の従魔を引き継ぐならズルも必要かなって思ってね。これから大変だろ。」


バルドが少し眉間にシワを寄せ考え始める。


「えー。私に似てたらどうする?意味ないよ。術なんかなくても生活できるし。貴族なんて面倒だし、従魔に頼らない様に育てれば大丈夫。健康なら何所でも生きていけるよ。」


バルドとルークが微妙な顔で溜め息を付く。


「そんなに簡単にいかない。はい辞めました。ではもうどうにも出来ないぐらい、ケイの旦那は凄い人だろ。幸せボケも程々にしろよ。バカ者。」


分かってるよ。そんなこと・・。


「君は君らしく子育てをすればいい。俺に任せていてくれ。」


それが心配なんだよ。無理するし・・。


ロベルトの頬を撫でる。ゴメンね。君の世界はちょっと窮屈かもしれない。


さあ、ふたりの顔を見て笑おう、すべてが順調で素敵な世界かのように、安心させるために。


「大丈夫。何とかなるよ。フフ」


私を見て肩の力を抜いたふたりは、またじゃれ始める。


オッサンから箱を受け取り、心地いい音色を紡ぎだす。


カラカラ・・



いつも何かから隠れるように躰を丸めて眠っている。


シーツの中から、顔を探し出す。やさしく頬に触れる。指先は次に唇をかすめる。躰が緊張を解いていく。微笑む、その穏やかな表情は普段は伺えない。無意識だろうか、右側にいるだろう誰かを瞳を閉じたまま探している。

呼吸が耳に掛かる赤毛を揺らすほど近づく。

《おはよう》甘く、甘く語り掛ける。囁かれる言葉に躰を震わせている。

心地いい柔らかな念が彼女の彷徨っていた手と共に声の主を捕まえる。


《くすぐったいよ、智。フフ》

呼んだ名は女と、この時間を過ごす事が出来ない・・。

女は捕まえた腕を引き寄せようと力を込めたその時・・


《トモじゃない。起きろ。今日は出かけるだろう。》


目玉が飛び出そうなほど開かれた瞳と視線を交わす。

次の瞬間、海老の様に後ろに跳ね飛びベットから落ちる。


「ククク。ファッ。ハハハハ・・・。お、おちた。」

「ヴッ、い・たい・・・・オマエ、殺す。」

「一発で目が覚めたろ。感謝しろよ。ギャハハ。」


さっきまでの甘い穏やかな空気は一変し、殺気を含んだ念が部屋中に満ちていく。

ジリジリと近づいてくる、後ずさる俺。

俺は溢れ出す殺気を祓い、己の念と絡め全く別の念に変貌させ、念を送り返す。


「念の擬装はもう終わるぞ。早くそのヨダレ痕を流して来いよ。」


ベットの向こう側から威嚇する、髪も乱れ着衣も崩れ酷い格好だ。でも。


彼女は美しかった。


「チッ。」


舌打ちをすると、一瞬で殺気はなくなり、欠伸をしながらいつも通り準備に取り掛かる。いつもの女に戻ってしまった。


ドスッ。後ろからかなり強く蹴りを入れられる。


「ッ・・・・。」

『やりすぎだ。』


ナンディーが、静かに怒っている。


「イタタ。加減しろよ。それに俺に頼んだ、サットが悪い。」

『本気ならお前は死んでる。不安定にさせるな。ただでさえ今日は・・』

「ナンディー助けて。」


赤毛にブラシを絡ませ、半泣きの女がレストルームから出てくる。


「・・お前、子供じゃないんだから。16だろ、泣くな。」

『ハハ。こっちおいで。セットしてあげるよ。』


険悪な空気は一変し、日常が始まる。


「髪切りたい。もう無理。長すぎる邪魔。」

『「駄目だ。」』

「サットは好きにしろって言ってた。」

「『駄目だ。』」

「洗うのだって大変なのに。」

「手伝ってやるぞ。」

「・・・・エロガキ。」

「ククク。」


ナンディーが赤い髪を綺麗に整えていく。その光景は絵画の様だ・・・。女は信頼し、奴は女を宝物のように扱う。念で繋がる二人。


ムカムカする。


「飯食ってくる。」

女が手をヒラヒラ振っている。ナンディーは、チラッとも見ない。


部屋を出て、歩きながら考える。アレはなんだ。


怒りに囚われる時に、微かに感じる薄く薄く女を包む、儚いのに強力な矛盾する念。女は変わる別の何かに、でも女も誰も気付かない、俺だけが知ってる・・・。



美しい彼女を・・・



女は平穏を望んでいる。


でもいつか俺は女の幸せより、悲劇を望んでしまうかもしれない。


彼女に逢うために・・・。


力が欲しい、彼女の傍らに立つために。






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