逆ハー
「ワープかよ。すごいな。」
そんな言葉と共に、サットと少年が現れた。カウチにいる私に気付いたようだ。満面の笑みで近づいて来る。
「マイケル・ドノヴァンだ。よろしく。トムじゃなくマイケルって呼んでくれ。渡りの御子さん」
「嘘つき。名前は覚えてないでしょ。アンタの名前、アメドラの主人公と一緒じゃない。恐れ多い事しないでよ。マイケルが穢れる。」
トムは顔を突出しニヤッとすると
「よく見て、なんとなく似てるだろ。前世が滅茶似てたんだよ、世代も同じだからモテたわハハハ。転生の条件にそのままの顔にしてくれってお願いしたし・「マジで!!もろタイプで、ドラマも集めてたんですけど。うーん?目元に面影が・・・。でもいい感じになるまで30年かかる。あの大人な感じが好きだったのに。ガキには興味ないし。」
「30年後は君はもうおばさんだろ。俺ちょっと無理だわ。ゴメンな、ハハハ。」
「こいつムカつく。サット、返して来て。」
『いい加減にしろよ。さっそく意味不明な事で喧嘩は勘弁してくれよ。』
擬人化したサットがお茶を用意して現れる。
「念で会話って違和感あるな。俺が頭で考えた事筒抜けになるのか?」
《伝えたい相手に伝えたい言葉だけだ。僕はナンディーよろしく。》
件の姿でナンディーが話しかける。
《びっくりだな。魔物に転生したのか!チャレンジャーだな。その魔物は地味に失敗だな。まあ、よろしく頼むわ。他に従魔は?》
『それで会話は止めてくれ。ご覧の通りこいつも渡りだ。詳し事情は後で説明する。あんたに望むのは分かってるだろうけど、念整師になって欲しい。』
「もちろん喜んで、でも独学は無理だろ。どうするんだ?」
『念整師が仲間にいる。7年やってるから指導も大丈夫だ。彼女に事情があって今後同伴できないから、代わりを探していた。』
小僧が床にしゃがむ。トンチ坊主みたく頭をクリクリし始める。なんだコイツ。蹴るか?
『カーリー、念でサットに話しかけてるよ。』
「ふーん。疲れたから、もう寝る。居なくても問題ないよね?」
『任せて大丈夫。おやすみ。』
口出しして話が逸れるから居ない方がいいだろう。寝室に退場する。
メラリーの代わりがアイツで大丈夫なのか?
それにしても残念だ。良い子だったのに・・。キャレチャー家との関係もわりとすぐにばれたんだよな。でもそのまま働いてくれたし、理解して私たちのために念整師にもなってくれた。
結婚か~。20歳はこっちでは適齢期チョイ過ぎてるし、相手もボンボンだけど良い奴だし、しょうがない。メラニー居ないと男ばっかりになるじゃん。もしかして・・・・。
逆ハーですね。
頭脳明晰、好青年 ※ 桃色カエル
30代の渋めの男前 ※ 人面牛・厄災付
未来の念整師、顔はタイプになるらしい。 ※ 5歳児
・・・・・まったく、嬉しくない。気分沈む。よし、なんか楽しい事考えよう。・・・マイケル。あのドラマ、ファイナルシーズンまだ見てなかった。あいつ、アメリカ人だし観てるかも、ラッキー!明日訊いてみよう。なんだ、ちょっとは役に立ちそうじゃん。
☨
俺がサットに念を試していると少女が部屋から出ていく、なんだアイツ退場か?
「問題なく通じてる。すごいな、慣れるまで口でも喋ってしまいそうだ。ナンディーはこっちの言葉はダメなんだろ。」
『ダメだね。理解もできないし、喋れない。』
「念は誰でも通じるのか?」
『念か少ないと上手く伝わらない、弱い魔の物は従魔術師や念整師以外ダメな場合が多いし、人は半々ぐらいかな。これからはマイケルの念は俺やナンディーからカーリーに同時通訳みたいに送る。』
「俺、従魔見たのあんた達で10体目ぐらいかな。擬人化は初めてだし。」
『生まれた町にギルドが無かったら、そんなもんだろ。大事な事なんだが、お前が渡りとか念整師の可能性を知ってる奴って誰かいるか?教えてくれ。』
サットが尋ねる。
「両親も近所の奴らも気付いてなかった。でも、ひとり確実にいる。渡りの念整師だ。スペイン人だったぞ。2年前になるかな。」
『そいつに念の操り方を教わったのか?』
「いいや、操作は自分で習得した。渡りだとばれたく無かったんでね。念を抑えたままなのは念整師のアドバイスだ。」
『念の操作止めることは出来るか、出来るなら卵の状態が良い。』
「大丈夫問題ない。卵になった。でもなんでだ?」
『そいつキャレチャー家の、念整師の可能性が高い。お前、星の語りに監視されてるかも。』
「マジか!?全く関係なかったのに、調べるもんなのか。」
ナンディーが擬人化しお茶を飲む。良い感じに渋い男になった。
『僕たちに念整師が絶対必要なのが分かってるし。貴族のお抱えの念整師に接触は危険なら、卵を探すだろうと読んでるのさ。』
サットが侮蔑の表情で呟いた。
『見付けれないからな。バカな従魔だけでなく人の手も借り始めたんだろう。』
思ったより厄介なのかもしれないな。でもいまさら戻るのも面倒だ。
「キャレチャー家の悲劇はどこまで正しい?あんた達の事もっと詳しく教えてくれ。」
俺は少女の座っていたカウチに腰掛た。
『いまなら、まだ戻れる。長い話を聞くと朝になってもうダメだ。本当にいいのか?』
「何をいまさら。」
『たしかに、クク。』
長い物語だった。
ワクワクする、悪い癖だ。