夢
少女の右手には、苦悩が刻まれた女の生首だった。
少女の赤毛は朱から絳に変化し、誰もが見とれた髪はまるで血塗れたメドゥーサの様だ。
「重い。臭い。邪魔。」
生首を足元に落し頬を踏みつける。血を含んだ髪を首筋で束ね、ブーツから抜き取った小刀で切り落とした。
少女はサッパリしたと微笑むと。生首を再び手に持つ。
「噴水みたいだった。作り物よりリアルは凄い。ねぇ、擬人化したあいつ等も切り落とせば血を噴くの?何色かな?でも箱に詰めて海に生きたまま捨てる予定だし・・・。女のリレションは何処?擬人化出来たよね。フフ、試そうよ。」
従魔は所詮魔の物。馬鹿な奴らだ、同じ過ちを繰り返す。
繰り返す。
☨
今日もだ。出会った日から欠かさず見る悲しい夢。先も後もないこの場面が繰り返される。でも大丈夫。まだ僕だけの夢だから。夢は夢。夢は夢。夢は夢。・・・・
☨
「飽きた。子供なのも、この世界も。なんかもういいや。あの家も崩壊中だし、こっちは放置に。へっ?従魔ってそんなに執念深いの?面倒だから、サットの魔法で屋敷ごとぶっ飛ばすのは?無理ですよねー。生き直したくなんてなかったのに・・・。この世界に貢献とか、そんな知識も無いし、義理もない。この鬱々とした気持ちはどこにぶつけるのよ!!!」
始まった。これが始まると1時間は止まらない。
俺の主は結構ヒドイ。
必要最低限しか努力しない。ナンディーを従魔してから、従魔術の訓練は全くしなくなった。本人はコツを掴んだからこれ以上は不必要だと主張してるが、かなり怪しい。
あんなに憎悪していたキャレチャー家の事は、2年間も恨みが続いたことに「本当に頭に来てたんだよ。すごくない?初めてだわ。嫌いで要るのも疲れるね。」まったくもって他人事だ。憎いから復讐ではなく、面倒なら排除に切り替わってきている。
好奇心はあるがすぐ飽きる。「知識は広く浅くが世渡り上手。」と言って、基本を押さえると放置する。
本気になれば国が興せると言えば、「晩御飯も作るのが面倒だったのに、国なんて絶対イヤ。」欲が全くない。
前世の心残りと聞けば「前の人生?すべてが適当でも最高に幸せだった。最後がちょっと酷かったけど。子供も旦那がシッカリしてるから心配だけど心配ないし。感謝こそあるけど、不満はないね。」踏ん切りがついてしまっている。
話す限りは、悩みなんて全くないのに、1週間に1回はブツブツ文句を言っている。
『人が理不尽なのか、主が理不尽なのか。』
『人は理不尽だが、彼女は優しいだけだよ。』
背後からナンディーが答える。
『俺を盗聴しないでくれる。』
『ダダ漏れの念でしたよ。文句を言ってるうちは大丈夫。同じにはならないよ。なんだかんだで、メラニーと仲良くなってるし、思考に体が追い付けば落ち着くよ。』
『最低でも4.5年は愚痴を聞かないとダメじゃないか。長いな~。』
『カーリーが本気になる方が恐ろしいね。今みたいに無駄話はできなくなる。』
そうだな。平和の証拠だな。でもそれも・・・
『実はもう無駄話はお終いだ。従魔じゃなく人が捜索してる。結構優秀、いつもの卸が見つかった。』
『それでは、サットの巣はもうダメですね。ばれたのは魔石が先か、巣が先か。』
『巣だろう。あと1年か。』
『安全第一なら半年でしょう。』
『そろそろ仲間が必要だな。』
『無理かな。彼女はやさし・』
下の階から叫び声が聞こえた。覚えたばかりの言葉で喚いている。
「遅いんらろ。朝こはんはメラニーとイチバーに肉を食べに行くにー。早くしろや!カエルと人面牛。」
ナンディーが笑い出す。
『優しいね…。俺ら以外には。』
『彼女は心配いらないだろ。ハハ。』
☨
まだ、プロローグだ。
永遠にプロローグで終わればいい。
でも逢いたい。
血塗れの少女は恐ろしいほどに美しい。総てを虜にする、冷たい微笑み。
夢の続きが見てみたい。あの少女の傍らに寄り添ってみたい。
夢を告げれば、物語は動きだし少女は僕の前に夢ではなく現れるだろう。
わかってる・・彼女は望んでいない。あの夢の少女を。
愛しい少女は、夢のまま・・
夢は夢。夢は夢。
僕はいつまで我慢できるだろうか。
朱は少し黄みを帯びた赤色を表します。絳は濃い赤色、深紅色を表します。
両方読みはアカです。