子守り
あたしはメラリー・ジョーンズです。今年12歳になります。8人兄弟の6番目です。
学校が6歳から11歳まで義務教育で、その後はお金持ちは進学だけど平民の子は働きに出ます。術の才能が有ったり、成績優秀者は無料で進学できます。あたしも実は進学のお誘いが有ったけど、ウチは貧乏なので進学は諦めました。学費が無料でも雑費が結構掛かるので無理なのです。先生はすごく残念がっていました。働き先は宿屋の下働きになる予定でしたが、先生が子守りの仕事を推薦してくれました。
面接には希望者が50人は集まっていました。面接の順番が回ってきました。部屋に入ると面接官はひとりで、ものすごく若い人でした。面接官は私の顔を見ると驚いたように見えました。でもすぐに笑顔になり2,3質問されすぐに終わってしまいました。
ダメかと思いましたが、翌日先生が合格の知らせを届けてくれました。お給料が宿屋より3倍は高く、先生の紹介で安心なので両親も大喜びでした。でも一番嬉しかったことは面接に行った時、屋敷には学校の図書室より沢山の本がありました。例え読めなくてもあの中で仕事ができるのはとっても幸せです。
あたしのお勤めしてるグエン家は東方からの移住者だそうです。
旦那様は、黒髪のハンサムな30代の男性です。名前はナンディー様です。喉の病気でお話が出来ないそうです。あたしが子守りをするのは、赤毛で凄く可愛い女の子カーリー様です。奥様はお産の時お亡くなりになったそうです。もうひとり、面接官もした旦那様の秘書のサットさんがいます。いつもは旦那様と一緒にお出かけしていて、たまに家にいるとあたしに勉強を教えてくれる優しいお兄さんです。
お嬢様はもうすぐ2歳です。本の読み聞かせが大好きです。いつも、「アイ。」と言って本を持ってきてくれます。とっても可愛いです。でも、従魔の心得、術の適正診断、世界の魔法全集など、2歳児向けではない本ばかり選ぶので、おとぎ話を読むのですが手から本を叩き落とし、また笑顔で「アイ。」と最初の本を渡してきます。
最初の頃はおとぎ話も聴いてくれていたのですが、前に英雄の従魔術師とおっちょこちょいの女騎士の冒険物語を聞き終えたら、物凄い奇声を上げて本を踏みつけ始めました。あたしがびっくりして固まっていると、サットさんが現れてお嬢さまを抱え部屋から出て行ってしまいました。少しすると苦笑いのサットさんが大丈夫だと言いに来てくれました。その日は子守りがお休みになりました。
クビになったらどうしようかと思いましたが、次の日からはいつも通りクビにもならず、お嬢様もニコニコしていました。それからは別のおとぎ話でも聞いてくれなくなりました。文字や言葉を覚えるならおとぎ話が良いので懲りずに読んでいるのですが、あまりにも拒否するので違う方法も考えています。毎回難しい本は15分読むと寝てしまうので勉強にはなりませんでした。
お嬢様が寝てしまうと同じ部屋で休憩になります。サットさんが勉強を教えてくれたり、旦那様がオヤツを持ってきてくれたり、好きな本を読んでも良く、恵まれすぎだとサットさんに言ったら真面目な顔で、
「メラニーが居るから、昼間安心して暮らせるので、こちらこそ感謝している。本が好きなら沢山読んで読みたい本の希望も言って、困った事があるなら何でも相談してくれ。休みもなく毎日ありがとう。」
あまりの言葉に嬉しくて少し泣いてしまいました。
少しだけ不思議な事があります。あたしの仕事は朝8時から夕方6時まです。昼間屋敷にはお手伝いさんが居ません。
6時になると毎日、馬車で3人が家まで送ってくれるのです。そのまま旦那様の仕事場に移動するそうです。すれ違いにメイドさんが屋敷に入って掃除と明日の食事の準備をするそうです。なぜなのか聞いてみると、旦那様の故郷の風習だそうで、世の中には変な習慣があるんだなと思いました。
グエン家は最高の仕事場です。皆さんのためにこれからも頑張っていきたいです。
☨
『俺たちは持ってる。メラリー・ジョーンズは不干渉、妨害の念を持ってる。念整術師 の素質がものすごく高い。』
「念整術師って、なに?初めて聞くんですけど」
ナンディーが少し興奮して『従魔術師より物凄く少ない術師で、念の治療師ですね。修行すると念に干渉してくる力を取り除き乱れた状態を正常に戻すことが出来るんですよ。人の念整術師だけが可能なんですよ。殆どの術師は王族とか貴族に囲われていて出会うことはほぼ無いですよ。』
「へー。でも、まだ術師じゃないでしょ?」
『彼女の念は呪いとか捜索とか人の念に干渉する力に対して無意識に防御してる。彼女と居る時は奴らを警戒しなくていい。』
「定住できる?早くこの屋敷買い取ろう。」
『やっと少し落ち着ける。まさか件が擬人化するとあの禍禍しい念が正反対に変質するなんて、星の語りや従魔避けの算段だったのに・・。』
「別にいいよ。男前だし。福眼福眼。」
『『・・・ 』』
『とりあえず、採用の知らせと、定住の準備を始めよう。』
「今の屋敷は夜用にするの?」
『それが良いでしょう。移転術で僕たちは帰りましょう。サットさん手続きよろしくおねがいします。』
「また後でね」
急ぐ事はない。ゆっくり力を付けていけばいい。奴らは私の呪いの言葉に苦しんでいるのだから・・・