おとぎ話
「こんばんは」
野営の見張り中に突然背後から話しかけられた。
「ああ、はい、こんばんはです。えーっと・・どちら様ですか?」
「こんなはずれで、見張りをしてるのに声を掛けられても全く平気そうだ。何か理由が?」
驚かない私に、驚いたらしい。
「理由はあるんですけど、一応見張りなんでお名前を・・」
「キャレチャー家の書記官だ。はい、身分書。」
「ハイハイどうもです。バルトさん、こんな辺鄙な所にどうしたんですか?」
「寝ようと思ったんだが、酒盛りがうるさくて目が冴えたんで散歩。」
「今日は仕方がないですよ。祝杯ですから。えーと、私はユーリアス・ターライヒです。よろしく」
私が手を出すと、バルトさんもにっこり笑って握手を交わした。
「それで、理由を教えてくれるかい?」
「この箱ですよ。悪意のある者が近づくと音が鳴るんです。」
「音が鳴る・・。君が今日の戦闘前にでっかい「その話は聞きたくないです。」
バルトさんは私を見ると、顔を真っ赤にして下を向いて小刻みに揺れている。
「チッ。笑いたければ笑えば。そうですよ、罰でこんな辺鄙な所で、祝賀会にも出れず従魔の代わりに見張りですよ。」
「ククッ・・。ゴメン。笑うつもりはなかったけど、ユーリアスさんが、話をぶった切ったから・・ク。その魔道具すごいな。俺、かなり後方にいたけどバッチリ聞こえたよ。クク」
「周りの人は、一時音が聞こえなくなって、大変だったんです。今まで、複数の敵と戦った時は大丈夫だったんですけど・・、いたずらですよ。オッサンはボッコボコに・・木に吊るし・ブツブツ・」
バルトさんの存在を忘れて魔道具の製作者に悪態を吐き続けてしまった。
「ク・・・クククッ・・アハハハ・・ワハハハハア、ゴ、ゴメン、作ったのはキャレチャー家の魔道具技師じゃないよな、見たことない。」
「私の地元の魔道具屋です。ほんとムカつくオッサンで、いつもいたずら仕込むけど、さすがに戦場に持って行くって知ってて、この仕掛けは信じられないですよね。」
「部隊の移動に1つあれば便利そうだな。追加で注文できないかな?」
「あ、無理です。オッサン「俺の道具は一点物だ。」とか言って、絶対作らないです。でもみんな考える事は同じですね。便利そうだと上官もキャレチャー家の技師に複製品依頼してたけど、複雑すぎて無理でした。」
「家の技師が複製品出来ないとは、その魔道具技師はもしかして渡り?」
「えー、普通のムカつくオッサンですよ。お館様と同じ渡り様なんて有り得ないです。口も悪いし、いつもお館様に訳わかんない悪態ついてましたよ。無礼なんですよ。」
「俺は結構近くでお館様見てるけど、そんなに凄くないよ。なんか従魔術が得意なだけって感じの普通の人だよ。で、オッサンはなんていってた?。」
「お館様を普通の人呼ばわりしたら、ダメじゃないですか。得意なだけで従魔千体従えたりしませんよ。悪態なんて聞きたいですか?私がキャレチャー家の凄さを話すと毎回ブツブツ、テンプラ?ズルいとか、点線はチートスはダメだから移転だ!とか言ってます。魔道具の専門用語かもしれないけど意味不明ですよ。詳しく聞いてもお前には関係ない、お前は多分チョロイン?だから、お館様に近寄るなって。チョロインて知ってますか?あ、また笑ってる。変な意味なんですね。オッサンいつも変なあだ名を付けてくるんですよ。私、ちょっとおっちょこちょいで、たまに失言したら、ケーワイ、ケーワイ言われて、普段呼ぶ時もケーワイで最終的にケイになって、親までケイって呼ぶようになってんですよ。信じられないでしょ。」
「その人と仲良いね。」
「えー。この話聞いて感想がそれですか。バルトさんおかしいですよ。それにしても私ばっかり答えてるのでひとつ質問していいですか?」
「もちろん。どうぞ。」
「バルドさんはお館様を知ってるみたいなので聞いてみたいんですが、なぜ、お館様には最初の者が、居られないのですか?誰に聞いても知らなかったので、気になりまして。従魔は最初の者が特に強いと聞きました、お館様の従魔はどれもこれも強く賢い、ならば最初の者は、物凄いのでは?特殊任務中ですか?戦死ですか?戦った相手は龍ですか?」
バルドさんはちょっと真顔になった。
「ああ、もしかして逃げられたんですね!!それじゃあ、みんな話題にできない。」
なぜか、バルトさんは驚愕の顔で私を見た。そして
「ククク・・。フフはっははははっは。く、苦しい・・はははは。逃げた、逃げたとは考えなかった。クク、確かに逃げたは、正解だよ。あいつは逃げたんだ。フフ。いろいろ悩んで損した。あいつは逃げたんだ。すっきりしたよ。ユーリアス・ターライヒありがとう。」
『お館様そろそろ』
従魔の念が突然聞こえて振り返えると、そこには大きな聖狼がいた。
「お、お、お、やかた様?」
「久々に楽しい時間だった。今度魔道具技師に・「お館様!!オッサン、いえ魔道具技師はお館様に敵意が在るわけではなく私との冗談での戯言で、処罰を受けるなら私です。彼は関係ありません。」
お館様はニャッと笑うと、
「わかってるよ。彼には会って話したいだけだ。罰か・・。そうだ最初の者は俺に見切りをつけて逃げ出した。と、みんなに知らせてくれ。」
「えーそれ無理でしょ。上官に殴られちゃいますよ。めちゃくちゃ痛いんですよ。」
「ハハハ。やっぱり君おもしろいな。嘘をついて悪かった、また埋め合わせをするよ。見張り頑張れよ。」
お館様は従魔と移動術で去って行った。
☨
キャレチャー家の初代当主は渡りの御子だった。
頭角を現してきた時には、すでに二百を超える従魔を従えていた。
戦乱の時代、多くの従魔を率いる初代当主の活躍は目覚ましく、出自が不明なれど最終的には侯爵の地位まで上り詰めた。
しかし初代当主の側に最初の者が、現れることはなかった。
ある日、初代当主の傍らにひとりの女性騎士が現れた。
彼女は偉大な渡りの魔道具技師を従え、幾度となく訪れる困難を初代当主と共に乗り越えていった。
二人はいつしか夫婦になり更なる繁栄をもたらした。
その物語は、今も人々に語り継がれている。