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スレナス物語(アンスロポスシリーズ)  作者: 緒方 敬
第13章 地下の牢獄
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地下の牢獄-2

●子供達の身の上

「ぼく! ちゃんと寝てて。酷い傷だったわよ」

 一番年嵩のお姉さんが、寝タバコで布団を焦がしてしまった喫煙家のような声を上げる。

「とりあえず大丈夫です」

 穏やかな僕の声に息を撫で下ろすが、かなり心臓がドキドキしているようである。

「お姉ちゃんね。お水飲ませるのにキスしたんだよ」

 今の僕よりも年下にしか見えない裸の男の子が囃し立てるように言った。

「アル!!」

 飛び出す怒声に、おお怖いと言う感じで縮こまる男の子。こんな場所でも明るく振舞えるとは幼いながらも一廉の人物。

「僕はスレナス。5歳になります。お姉様は?」

 とは言え僕もお姉さんも顔がかぁっと熱くなったので、急いで話題を変えた。


「あたしはシャル。シャルロットよ。あなた随分確りしてるわね。まるで大人みたい。とっても6つも年下なんて思えないわ」

 女の子の成長は、心も身体も男の子より早い。前世でも小中学生では同級生がお子様にしか見えない女の子の方が多かった。

 無理も無い。高校生にもなって学校でかくれんぼを始めたり、校庭に積もった大雪に二階から飛び降りたりするような幼稚な奴を彼氏にしたいとは思わないだろう。自然対等な精神年齢の相手、つまり年上に恋するのは自明の理。

 父上の用意した貴族の教育もあっただろう。しかしそれにも増して前世の人生経験が、僕をして早熟すぎる人物たらしめているのだ。


「ここは何処ですか?」

 解っては居るが敢えて聞く。何せ僕は、鞭打たれて意識を失った後、ここに放り込まれたのだ。

「お舘の地下です」

 神殿騎士団のマッシリア本部の地下だとシャルは言った。

 上に小さな通気の穴がある。そこから僅かに差し込む光が辛うじて牢獄ひとやを照らす。

 雪でも積もれば穴は塞がれ、真闇まやみに包まれるだろう。そして囚人めしうどは窒息の危険に晒される。

 つまり、ここに入れた者が死んでも構わないと言う造りなのだ。


「貴方達はどうしてここへ」

 全員子供。大した罪があるようには思えない。僕は彼女らの身の上を聞いた。


「おいらね。お腹空いたからパンを頂戴って言ったの。それでお店のおじさんが一切れくれたんだよ。でも、コジキは駄目って騎士様に連れて来られたの」

 物乞いをした子。


「お兄さん達とお外で暮らしてたら、あたしだけ騎士様に掴まって」

 どうやら浮浪児狩りで掴まった子。


「お母さんのお葬式の後…」

 死んだ親の借金が払えなくて連れて来られた子。


 条件は雑多だが共通点があった。何れも子供の奴隷の供給源だ。


「スレナスは?」

 とシャルが聞くので、

「ルテティアから巡礼の旅をして着ました。管区長様にお見せするよう渡された、僕の身分を証しする品を示して衛士様にお取次ぎをお願いした所。どうやら僕は盗人と言うことにされてしまったようです」

「嘘! ノルマンの王都から?!」

 シャルは驚きを隠せ無かった。5歳の子が一人旅出来る距離では無いからである。


「お姉様は?」

 と僕がシャルに尋ねると、

「あたしも似たようなものね」

 と溜め息を吐いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 実はこう見えても、あたし貴族様のご落胤なの。殆どあなたと同じね。

 母さんが死ぬ前、私に手形と書付を渡して、神殿騎士団で証拠の品を預かっているから

 見せてお父さんに対面させて貰いなさいって。

 お家の都合で妾か後妻に行かされるだろうけど、身を売るよりはましだって言われたわ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 横領の類だろうか? それとも、何か訳有りの話だろうか?

 それは解らないが、遺言や供託の管理は神殿騎士団の生業の1つ。

「嘆かわしい事です。今や神殿騎士団はしゅではなくマモンに仕えるやからが増えて居るのですね」

 僕は大袈裟に十字を切った。


 そうこうして居ると。辺りががやがやと騒がしくなった。子供の泣き声、抗う音。それが段階を追って近づいて来る。

 ランプの灯りが格子の前まで近づいて止まった。

「騎士様。後はこの子達だけですか」

「ああ。男女混じっているが15人程だ」

 ランプに照らされる姿は商人のようであった。


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