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スレナス物語(アンスロポスシリーズ)  作者: 緒方 敬
第13章 地下の牢獄
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地下の牢獄-1

●有罪

 ツーンと鼻を刺す匂いに、意識がはっきりして来る。

 この匂いはアンモニア。尿を醗酵させて蒸留した物だ。

「…誰?」

 刺激で溢れる涙で滲むその顔は、

「若。気をしっかり持って下さい」

 耳元で囁くこの声は、忘れもしない父上の耳目。

「タンゴかい」

 辺りを気にして、声には出さず唇を動かす。

「大丈夫です。皆眠っています」

 他に囚人が居るので遅れたのだと言う。

「うっ…」

 やはり背中に響く。皮が裂けているようだ。

「随分と僕、やられたようだね」

「はい、手向かいしない子供に良く出来たものです。あの子達が半泣きで傷を洗ってくれていました」


 先客に目を遣る。裸や半裸、襤褸服の違いはあるが皆子供ばかりだ。

 ルリより少し年上のお姉さんが一番の年嵩で、男の子は僕と同じか小さい子。女の子が男の子のほぼ3倍。

 なにやら如何わしいが今は枝葉。僕は話を手で遮って訊ねる。

「それよりタンゴ。短剣はどうなった?」

「先の衛士達の隊長が、わたくし致しました」

「隊長って正騎士だよね」

 にやりと笑って見せるが、背中の痛みで強張るのは仕方ない。その様にタンゴは小声ながらも色を替えて、

「勿論です」

 と言った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 隊長職は下級とは言え歴とした幹部です。これは神殿騎士団の仕出かしたことです。

 充分にお家はフェーデの口実に出来ますわ。


 加えて古代帝国の市民権は教会の保証する所です。

 それを塵芥ちりあくたのように踏み躙られては、教会の沽券に関わります。

 ですから今回の事は彼らの聖職者の特権は使えません。

 彼らは教皇きょうこう猊下げいかにお縋りするが出来ないのですから。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 身形みなりは人を量る有効な手段ではあるが絶対ではない。

 例えば洗礼者ヨハネは、らくだの皮衣を着、腰に革の帯をしめ、いなごと野蜜を食べ物とする人物であったし、国王陛下とて懺悔なされる時には灰を被り荒布を纏うからだ。

 僕は巡礼の体裁を取ってこの地に来た。主の前にへりくだる事は誉められこそすれ非難される事ではない。

「責めはマモンの使徒にある。しかし、ここまで腐って居たとはね」

 難癖を着け取り上げた宝剣には仕掛がある。柄から釘で固定されている刃を外すと、柄に隠れる部分に元に王家の百合が刻まれているのだ。


「タンゴ。上はこの事を知ってるのかい?」

「恐らく、話は上に登る事無く揉み消されていると思います」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 僕は彼らに『嘘を言ってない』よ。

 短剣は確かに僕の王家の使者と言う『身分を証するもの』だ。


 何を勘違いしたかは知らないけれど、短剣は管区長への陛下からの贈り物であるから、

 彼らは二重に罪を犯している訳なんだけどね。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そこは彼らに悪心を喚起させる為に仕組んだ事だけど、彼らの一人一人が真の騎士や聖職者であるならば、引っ掛かる訳も無い事だ。主に仕えるような真心を以って対処するなら、話は確実に管区長へと上がって行く。

 門前払いや無視ならば兎も角、盗人と決め付けてのこの仕打ち。あまつさえ宝剣をわたくしするなど言語道断。大義名分は僕らの上にある。

「タンゴ。急ぎこの事を父上に」

「若はどうなされますか? お命じ下されば直ちに牢を破りますが」

 僕は肌脱ぎになり念を籠めた。


 腕から現れる籠手。剣を受けれる程頑丈で、内に手裏剣を仕込んでいる。

 胸から現れるメダル。それは陛下直家臣にて、帝国市民権を持つギルド青銅士の証。

「僕1人でも大丈夫だ。それに今回の事、冒険者ギルドも動いてるよ」

「判りました。間も無く彼らも目覚めるでしょう。これが牢の鍵です」

 タンゴは僕に牢の鍵を握らせると、立ち去って行った。


「…んんっ」

 うつらうつら目を開くお姉さん。他の子も、次々に眠りから目覚めつつあった。


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